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「つまんねーな、何かないのかよ」
「何かって?」
「なんかこう、この宇宙がひっくり返るくらいすげー事起きねーかなぁ」
「ゼフェル、それって問題発言だよ。やっと女王試験も終わって落ち着いたっていうのに」
マルセルはオーブンを開けながら、諌めるように答えた。
辺り一面にぷーんとバニラエッセンスの香りが漂う。
マルセルはオーブンの中に綺麗に並べられたクッキーを軽く指先でつついて満足げに微笑んだ。
「うん、大成功! ねぇ、うまくいったでしょう?」
キッチンミトンを手早くはめて、オーブンからクッキーの並んだ鉄板をそっと取り出し、窓辺にもたれかかるゼフェルに、にこにこと話しかけた。
ゼフェルはちらりと鉄板を見ると、さも嫌そうに顔を歪め、窓の外に視線を戻す。
「うぇ。甘ったるい匂いさせやがって、こっちに持ってくんなよ」
「……意地悪。いいよーだ、ゼフェルには味見させてあげないから」
「頼まれたってお断りだ、んなもん」
「マルセル、これでいいかな!?」
バンッ!っと元気に扉が開く音が屋敷中に響き渡る。
台所にいた二人が振り向くと、上気した顔をして両手いっぱいにライラックの花を抱えたランディが駆け込んできた。
「どの位いるのかわからないから、とりあえず持てるだけ取ってきたんだけど。
まだ足りないかな?」
「……ランディ、ぼくの花壇全部持ってくる気?」
マルセルはテーブルの上に置かれた花の束を見ながらポツリと呟く。
「クッキーと一緒にバスケットに詰める飾りなんだからほんの一握りでよかったのに」
え…?とランディは一瞬息をつめる。が次の瞬間、彼特有の人なっつこい笑顔を浮かべながら、頭を掻いた。
「なんだ、そうだったのか。俺、花束でも渡すんだと思ってたよ。ごめんな、マルセル」
「何で花束渡すんだよ。相変わらず考えなしだな、てめーは」
ゼフェルが窓に寄り掛かったまま呟いた。
その声が聞えたのかどうか、ランディはそそくさと花を再び集め始めた。
「これ捨ててくるよ。使わないんじゃ邪魔だし」
「駄目だよ。せっかくこんなに綺麗に咲いてくれたんだから、捨てるなんて可哀想だよ」
花をかき集めるランディの手を慌てて制し、マルセルは抗議した。
「せっかくだから花束にしない? クッキーと一緒に持っていって、アンジェ達にプレゼントすればいいよ、ね?」
マルセルはにっこりと微笑んだ。
彼の無邪気な笑顔はランディと違って、なぜか言い知れぬ迫力があった。もっともそう気付いているのは、今のところゼフェルだけだったが。
「そうだな。彼女達喜んでくれるかな?」
「うん。ぼく達の気持ちがこもってるもん。ね、ゼフェル?」
「いきなり俺に振るなよ。…よーするに廃品利用だろ?」
「……もう少しましな表現してよ」
「そうだぞ、ゼフェル。例えば、リサイクルとか」
「同じじゃねーか」
「……もういいよ、二人とも。ランディはリボンを取ってきて。ぼくの机の引き出しにいくつかあるから。
あ、ゼフェルはラッピングしてくれる? ちゃんとアンジェリークとレイチェル用に分けてね」
マルセルは軽く額を押さえながらてきぱきと二人に指示をする。
ランディは、入ってきた時と同じように勢いよく駆け出してゆく。
残されラッピング係を拝命したゼフェルは、驚いて抗議の声をあげた。
「って、おい、マルセル!なんでオレまで手伝うんだよっ!」
マルセルはバスケットの中にレースペーパーを引き、その上に丁寧にクッキーを並べながら答える。
「ゼフェル、手伝いに来てくれたんでしょ?」
「ちっげーよ! 暇だから来ただけだろ? そしたらおめーは、あいつらとお茶会するっていうし…」
「暇ならいいじゃない、手伝ってくれても。お茶会に一緒に行こうよ」
うっとゼフェルは言葉に詰まる。確かに彼の言う通りに、暇にまかせてここに来たのだから反論できなかった。