「鳥だけに限りませんが、動物には巣を守るという本能があるんですよ。まあ、子育ての時期ですし、警戒心が強くなっていますからね。親鳥にしてみれば、あなたは危険な侵入者としかみえなかったのでしょうねぇ」
のんびりと話しながらも手際よくマルセルの手当てをしているのは、地の守護聖ルヴァだ。古参の守護聖でもある彼は寂しげに微笑むと、マルセルの手に巻いた包帯の端を少し強めに縛って手を離した
「はい、これでいいでしょう。痛みますか?」
「大丈夫です……ありがとうございました」
「手間をかけたな、ルヴァ」
「いいえ、これくらいのこと。それより……この子をどうしたらよいでしょうねぇ」
ルヴァは細い目をさらに細めるようにして、箱の中で眠る小さな生物を見つめた。
「このまま自然に戻しても、まず生きていけないでしょう。かといって、マルセルの話を聞くと改めて巣に戻すこともできないし……」
おっとりと何気ない世間話のような口調だが、彼は真剣に悩んでいる。その横顔をじっと見ていたマルセルは、やがて隣にたたずむカティスを見上げて口を開いた。
「カティス様。この子……僕が面倒みてはいけませんか?」
「お前が育てるって言うのか?」
驚いたように目を見張るカティスにうなずいてみせたマルセルは、真っ直ぐな瞳を逸らさずに続けた。
「この子、僕に似てるんです。親とはぐれて、知らない所でひとりぼっちで……きっとすごく不安で……。だからあんなに泣いていたんだと思います」
「お前も寂しいのか?」
「……寂しくないって言いたいです。でも……だから僕、この子の気持ちがわかるから……僕が……」
言いたい事がうまく言葉にならず、思わず目をふせてしまったマルセルの肩を、ルヴァがそっとたたいた。
「カティス。マルセルならしっかりお世話してくれると私は思いますよ」
「ルヴァ様……」
「まぁルヴァがそこまで言うなら……わかった、しっかり面倒を見てやるんだぞ。小さな雛とはいえ生き物なんだ、きちんと最後まで責任をもてよ」
「はいっ!」
「君の名前、いろいろ考えてみたよ。呼びやすくて可愛くて、覚えやすいのがいいよね」
ベットのサイドテーブルの雛に話しかけると、雛はマルセルを見上げて軽く首をかしげた。その仕草に目を細めたマルセルは、枕に乗せたあごの下に両手を置いて口を開いた。
「それでね、チュピ、って言うのはどうかなって。初めて逢ったとき、君はチュピチュピって鳴いていたでしょ? それがすごく可愛いなって思ったんだよ。だから……どう? 気に入ってくれるならいいんだけど……」
小さな籠の中で雛、チュピは名前の由来通り、チュピっと鳴いた。それはこの小さな雛が、マルセルを友達として認めた証だった。
「君と僕は似てるね。お母さんや家族と離れて、もう二度と会えないのに笑って別れて……」
布団に包まったままチュピに話しかけてみるが、小鳥は分かっているのかいないのか、マルセルをその大きな目で見返してくるだけだ。
「僕、守護聖になるって聞いた時、とても嬉しかったんだ。一人前、って認めてもらえて、大人と同じように扱ってもらえて。今までは一番末っ子で甘えん坊だって言われてたけど、これからは違う。僕はもう大人なんだ、僕が皆を守ってあげるんだって」
小首をかしげるチュピから目を逸らしたマルセルは、悲しげに顔をゆがめると枕に顔を押し付けた。
「なのに……僕…お母さんに会いたい! お父さんやお姉ちゃん、お兄ちゃん達に会いたいよ! でも、みんなは僕の事なんて忘れてるかもしれないんだ! 守護聖ってなに? なんなの? みんなを守りたいって思ったのに、そのみんなに忘れられても僕は此処にいなきゃならないんだ! 僕……僕はっ!」
視界がぼうっと歪んできた時、微かにドアをノックする音が聴こえたマルセルは、はっと我に返ると慌てて布団をかぶった。