magique petit chat

(7)-木の曜日-

ルヴァはさっきからまるで動かない。

いい加減しびれを切らしたオスカーは、小さく溜息をつくとルヴァの肩を軽く叩いた。

「ルヴァ。何か見つかったか?」

我に返ったルヴァは本から顔を上げ、照れ臭そうに振り返ってほわんと笑った。

「え? あ、すみませんねぇ、つい夢中になってしまって……」

「それは見ればわかる。で、何か見つかったのか?」

「そうそうそれ! ……ええと、なんでしたっけ?」

恍けた答えに、オスカーのこめかみに青筋が浮かぶ。

「だからっ! 蒼い髪のお嬢ちゃんを探してるんだよ俺たちはっ! どこに行ったのかとか、いなくなる前に何か言っていたとか、手がかりになりそうなものがないかって聞いてるんだッ!」

オスカーの声に驚いて、ルヴァの机の上でとろとろとまどろみ始めていた白い子猫が、弾かれたように顔を上げてオスカーを見た。

「にゃあ?」

「ああ、すまないブルーアイ。驚かせちまったな」

「ブルーアイ? これはまた、随分と綺麗な名前ですねぇ」

ルヴァがにこにこ笑いながら子猫を見下ろすと、彼女は嬉しそうに目を細めて咽喉を鳴らした。

「呼び名がないと不便だから適当に付けたんだ。綺麗な青い目をしてるんでね」

「そうですか。よかったですねぇー、ブルーアイ。素敵な名前をつけてもらって」

「にゃー」

ルヴァは呟くと軽く微笑んで、彼女の頭を優しく撫でる。子猫はルヴァの温かい手のぬくもりが気に入ったのか、うっとりと目を閉じて、おとなしくされるがままになっていた。

「――それはともかく、どうなんだ? お嬢ちゃんに貸した本の中に、手がかりらしいことは書いてなかったか?」

言いながらオスカーは、ブルーアイの身体をさっと机の上から抱き上げた。なんとなく、他の男にずっと触らせているのが面白くなかったからだ。

「あ、はいはい、そうでした」

取り上げられた感触に、ルヴァは一瞬残念そうな表情を浮かべたが、すぐに気を取り直して椅子から立ち上がった。そして手元の本をぱらぱらと真剣な表情で捲る。

「あのですね、オスカー。これが、彼女に最後に貸した本なのですが……」

ルヴァの言葉に、オスカーは黙って聞き入る。

「これを最後まで読んでみたんですが……ここには」

「なんだ?」

堅い口調で問い返すオスカーをじっと見つめ返し、やがてルヴァは口を開いた。

「特に何も書いてありませんでしたよ、あはは」

――どてっ

椅子から転げ落ちたオスカーの顔を、上手く床に着地したブルーアイが心配そうに覗き込む。

「だ、大丈夫だ」

オスカーは引きつった笑みを浮かべるとブルーアイの頭をくしゃっと撫で、身体を起こしてルヴァを睨み上げた。

「何もないなら勿体ぶった言い方するなっ!」

「すみません。でもね、オスカー。そもそも本の中に手がかりなんかありませんよ。彼女は本を読んで知識を増やすことは好きでしたけど、その内容に振り回されるような人じゃありませんでしたから。ねぇ、ブルーアイ?」

「にゃあ」

当然、とばかりにうなずく子猫とルヴァを見比べ、やがてオスカーはつまらなそうに頭を掻いた。

「そりゃそうだが、だったら俺が来た時にそう言ってくれ。こっちもそう暇じゃないんだぜ」

立ち上がるとオスカーはブルーアイに手を伸ばし、彼女がととっと駆け寄って来たところをすくい上げてから溜息をつくと、くるりと踵を返した。

「時間取らせて悪かったな、ルヴァ。もしなにか手がかりが見つかったら教えてくれ」

「わかりました。……あ、オスカー!」

振り返ったオスカーに何か言いかけたルヴァだったが、結局それは曖昧な笑みへと変わった。

「あの、きっと彼女は見つかりますよ。たぶん……そう時間もかからずに、ね」

「……ああ、そうであることを願うぜ」

オスカーは寂しそうな笑みを浮かべると「じゃあな」と小さく呟いて、扉に手をかけた。

パタンと軽い音を立てて閉まる扉を見つめ、ルヴァはなんとも困ったような笑みを浮かべる。

「すみません、オスカー。ホントは彼女の居場所を知ってるんですけど、アンジェリークに口止めされてるので……本当にすみませんねぇ」

 

「……やーっぱりあの子が絡んでるんだね」

オリヴィエはそう呟くと、楽しそうに口元に笑みを浮かべた。その様子に、リュミエールは不安そうな表情を浮かべる。

「オリヴィエ、あの、なんだか楽しんでいるように見えるのですが……」

「うん、楽しんでる♪」

きっぱりと言いきると、唖然としたリュミエールを見上げてにこっと微笑んだ。

「まぁ、あの子の考えだから、そう大したことにならないだろうって安心した所為でもあるんだけどね。本当にロザリアが危険な目にあってるんだったら、いくら私でもそんなに浮かれてやしないよ」

実は、ロザリアの正体がばれたら、(別の意味で)かなり危険な目にあう可能性の高いところに彼女はいるのだが、さすがのオリヴィエも、この時点ではそれに気がついていない。

と、オリヴィエの執務室の扉が少し乱暴にノックされ、机の前に立っていたリュミエールは振り返り、オリヴィエは頬杖を止めて口を開いた。

「開いてるよ、入っといで」

オリヴィエの合図の後すぐに扉は開かれ、まず仏頂面をした銀髪の少年が顔を出した。

「連れてきたぜ。ほら、入れよ」

「お、お邪魔します」

促されて中に入って来たのは、金の髪をふわふわと揺らすもう一人の女王候補アンジェリークだった。

「ご苦労だったね、ゼフェル。さ、アンジェ、こっちにおいで?」

「ったく、人を伝書バト代わりにしやがって」とぶつぶつ言うゼフェルを無視し、オリヴィエはにっこりと笑って立ち上がった。

「さーて、と。アンジェ、ちょっとアンタに聞きたいことがあるんだけど……話してくれるよ、ね?」