オリジナル・スマイル

(3)

「私がここまでこれたのは、守護聖様方やロザリアがいてくれたから。そしてこれからも皆様と一緒に歩んで行きたいから。その想い出と未来を、この砂に託して皆様に差し上げたいんです」

「アンジェリーク。育成物を持ち込んではいけないと何度も申したはずだが」

光の守護聖は、ほんのわずかだが声を荒げた。

「あー、怒らないで下さい、ジュリアス。私が許したんですよ」

慌てて口を挟むルヴァに、驚いたようにジュリアスは続ける。

「そなたが?」

「ええ、アンジェリークが言ったんです。最初で最後の我が儘です、と……。そういわれたら、なにもいえませんよねぇ。ロザリア?」

「ロザリア、そなたも承知していたのか?」

「つい先程、聞かされましたの。こういう要領は本当にいいんですから……」

「えへっ、ありがとう、ロザリア」

「誉めてるわけではないわよ、あきれているのっ!」

「先が思いやられるわ」とため息をつく次期補佐官を横目にしながら、アンジェリークは守護聖一人一人に小瓶を手渡してゆく。

何か言いたそうにしながらも、黙って受け取るジュリアス。

「ありがと、うーん、綺麗だね。宝物にするよ」

瓶を光にかざし、ウィンクのお返しをくれるオリヴィエ。

「この砂は僕の初めてのお仕事の記念でもあるんだよね。ありがとうアンジェリーク」

感慨深げに瓶を見つめた後、とびきりの笑顔をかえしてくれるマルセル。

「ただの砂が、こんなに綺麗だとは思いませんでしたよ。あなたの気持ちがこもっているからなんでしょうねぇ、アンジェリーク」

優しく微笑んでくれるルヴァ。

「私にとっても初めてでもあり、とても貴重な経験でした。ありがとうございます、アンジェリーク」

穏やかにこちらを見返してくれるリュミエール。

「もうお嬢ちゃんとは呼べないんだな。いい女、いや素晴らしい女王になるんだぜ。これからも俺はいつも君のそばにいるからな」

瓶を手渡す小さな手をとって、誘いかけるような瞳をむけるオスカー。

アンジェリークはこの場に残った最後の1人、ゼフェルの元へ歩み寄った。

「ゼフェル様、あまりこういうの好きじゃないでしょうけど、どうしても皆さんにありがとうございましたって言いたかったんです」

あさっての方を向いているゼフェルの手に、そっと瓶を握らせる。

「だから……今は受け取ってください」

「俺じゃねーだろ」

何を言われたのかわからず、上目づかいにゼフェルの顔を覗き込む。その様子をちらっと横目で見て取ると、あきれたようにため息をつき、ゼフェルは正面からアンジェリークを見据え吐き捨てるように続けた。

「おめーのほんとの気持ちを伝える相手は、俺じゃねーだろ? お互いに隠してたつもりなんだろーけど、どっちもどんくせーからばればれなんだよ。おめーも、あののーてんきやろーも!」

見る見る赤くなり、下を向いてしまった金の髪の少女にゼフェルは少し口調を和らげた。

「いけよ、時間がねーんだろ? ちゃんと決着つけろよ。どんな形でも、後悔しないようにしろよな」

「あの坊やだったら、おそらく湖のあたりにいるぜ」

ゼフェルのそれとは違う低く透る声が聞こえ、アンジェリークは顔を上げたいつのまにかゼフェルの後ろに守護聖達が集まっていた。

「ゼフェル、あんたいい事言うねぇ。成長してんじゃない? ねぇ、ルヴァ?」

「そーですねぇ、でもまず人に物を貰ったら、ありがとうと感謝の言葉を言わなくてはいけませんよ、聞いていますか、ゼフェル?」

「ルヴァ様、それは論点がずれているように思えるのですが……」

「アンジェリーク、女王様にだって好きな人がいてもいいと思うんだ、僕。一人の人を愛せない人に、全宇宙の事愛せるかどうかわからないし…」

「人を愛する気持ちは強さを生み出すんだぜ、お嬢ちゃん。この俺の強さは、あまたのレディに愛されるがゆえ、ともいえるからな」

「よいか、アンジェリーク。そもそも女王陛下というものは、宇宙の全てに等しく愛情をそそぎ、特別な存在をつくるなど言語道断…」

「あーもー、うるせーぞてめーら!」

勝手に騒ぎだした皆を、ぼう然と見つめるアンジェリークの腕をひっぱって、木の陰に隠れるようにしてロザリアは今日何度目か(数えるのもいやになるくらい)のため息をついた。

「まったくあんたといい、守護聖様方といい、どうして成長しないのかしら? ほんと、先が思いやられる」

「ごめんね、ロザリア」

ぺこりと頭を下げる、アンジェリークを見下ろしてロザリアは言葉を続ける。

「で、どうするの?」

「どうするって…」

「こんなときに皆さまを呼び出したってことよ。自分は明日から女王になりますって宣言しようとしたんでしょ? あの方への思いを断ちきるために」

「……ロザリア」

「早く行きなさいな、もう、日が沈むわよ」

「……でも、私……」

「女王に好きな人がいてはいけない、なんて誰も言ってないわよ。まあ、あんたらしいんじゃないの?」

「……うん、ありがとう! その代わり明日から立派な女王様になるね!」

「ま、期待しないでいるわ」

嬉しそうに駆け出していくアンジェリークを見送りながらロザリアは叫んだ。

「暗くならないうちに戻ってくるのよ!」

あっという間に新女王陛下の姿が見えなくなると、新女王補佐官は一人呟いた。

「ほんとう、先が思いやられるわ。でも……やりがいはありそうね」