ホットドックとコーラという軽い昼食をすませた二人は、どこへ行こうという当てもなく公園を歩いていた。
別に何を喋るわけではなかったが、アンジェリークの隣にはランディがいて、ランディの隣にはアンジェリークがいて。
それだけで、二人は満たされた気分になっていた。
そして公園にいると、ランディはあちこちの子供たちから声を掛けられた。いつもならば気持ち良く子供たちに付き合うランディだったが、今日はほんの少しだけ迷惑そうに眉をひそめてしまった。わずかしかないアンジェリークとの時間を潰されたくないと思ったからだろう。
けれどアンジェリークは、子供たちにまとわりつかれて困惑するランディの事が、ちょっと誇らしかった。
「ランディ様って子供たちに大人気ですよね」
「いや、なんかついかまっちゃうんだよな。……やっぱり俺が子供だから懐かれちゃうのかなぁ?」
困った表情を浮かべて頭を掻きながらも、ちらりちらりと子供たちに視線をおくるランディを見つめ、アンジェリークは軽く首を振った。
「そんな事ないです。子供って優しい人とかいい人をちゃんと見分けるんですよ。だからランディ様が子供たちに好かれてるって事は、ランディ様が優しくていい人だってことだと思います」
「うん! 僕、ランディ様が大好きだよ!」
「あたしも大好き!」
アンジェリークの言葉に反応して、子供たちが次々に手を上げながら叫んだ。
ランディは一瞬虚を突かれた表情を浮かべたが、すぐに相好を崩すと、その場にいた少年の前にかがみ込んで軽くその子の頭を撫でた。
「ありがとう。俺もみんなのことが大好きだよ」
小さく笑いながらその光景を見ていたアンジェリークのスカートの裾を、誰かがくいっと引っ張った。
視線を下ろすとそこには小さな少女がいて、アンジェリークの視線を感じるとにこっと笑った。アンジェリークが思わず微笑み返し、腰をかがめて顔を近づけると、少女は内緒話をするように口をアンジェリークの耳元によせてこそっと呟いた。
「お姉ちゃんもランディ様が好き?」
「え?」
子供の他愛ない問いかけだとわかっていても、アンジェリークは一瞬言葉に詰まった。
だが子供は真っ直ぐだ。
躊躇うアンジェリークに向かって、尚も同じ問いを繰り返した。
「ね、好き? ランディ様が好き?」
結局、午後の大半は子供たちと遊ぶので潰れてしまった。
サッカーの人数が足りないからチームに入って、とランディが誘われたからだ。
彼は最初、さすがに躊躇っていた。しかしアンジェリークはにこりと笑うと、ランディの背中をぽんと押したのだ。
「わたし、ランディ様がカッコ良くシュートを決めるとこが見たいです」
暖かい日差しは去っていた。
夕暮れの赤い空を見上げると、ランディの頬を寒気を含んだ風がさっと撫でて通り過ぎていく。だがその冷たさも、アンジェリークには関係ないらしい。
「風を切るってああいうのをいうんですね。すごかったです!!」
「あはは。風を切るってのは大げさだよ」
「え?! だって音がしましたもん。びゅーっ! って」
「そこまですごくはないと思うけどな」
「そんなことないですよぉ! わたし、ちゃんと聞いたんですから! びゅーっ、ズバーンッ!! って」
興奮気味にジェスチャーを加えて感動を伝えようとするアンジェリークをちらちらと見ながら、ランディはくすくすと軽く笑った。
「なんだか君の方が試合に出たみたいだね」
「そ、そうですか?」
興奮のあまり早口で喋った所為か、アンジェリークは顔を真っ赤にして息を微かに荒げていた。
反対にランディは、日頃の運動の為か、すでに呼吸は元の状態に戻っている。これでは確かに、つい先程まで激しく走り回っていたのはどちらかわからない。
「でもよかった。君に楽しんでもらえて」
「はい、すっごく楽しかったです! サッカーを見てあんなに興奮したの初めて。それにあの……」
言葉を切ったアンジェリークは、何気なく見返してきたランディの顔を覗き込んで恥ずかしそうに小さな声で呟いた。
「ボールを追いかけてるランディ様も、シュートを決めたランディ様も、すごくカッコ良くて、その……素敵だったから……」
「……ありがとう」
思わずさらりと口から出た答えにランディ自身が驚いたらしい。
急に気恥ずかしくなったのか、ぽりぽりと左手で頬を軽く掻いて彼女から視線を逸らすランディの横で、アンジェリークもまた頬を軽く染め、彼から視線を背けた。
急に二人の間に無言の時間が訪れる。黙ったままゆっくりと歩き続けていると、やがてランディの右手が微かにアンジェリークの方へ動いた。
しかしその手はアンジェリークの手に振れそうになった時、急になにを躊躇ったのかぴたりと止まった。そして所在なげに宙を彷徨った後、ランディの右手は彼の上着のポケットへと吸い込まれてしまった。
「あ!」
急に声をあげた彼に驚いたアンジェリークは、すっと顔を上げてその横顔を覗き込む。
「どうしたんですか?」
するとランディはぴたりと足を止め、アンジェリ?クに向き直って軽く微笑んだ。
「忘れてた。君に渡したいものがあったんだ」
「わたしに?」
アンジェリークも足を止めてランディの顔を見上げながら小さく首を傾げる。
するとランディはかさかさと音を立てながら上着のポケットから小さな包みを取りだした。
そしてアンジェリークの手を取って、その手の平の上に取りだした包みを乗せる。
「君がこれからも頑張っていけるように」
手の中の小さな包みをしばらく見つめ、次にアンジェリークは顔を上げてランディを見た。すると彼は軽く頷き「開けてみて」と小さく呟く。
包みにかけられた細いリボンを解きクリーム色の包み紙を開くと、現れたのは薄いグリーン色の小さな巾着袋だった。
その紐をほどいて中身を手の平の上に乗せた途端、アンジェリークは小さく息を飲んだ。