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「――皆、本当にお酒強いよね」

呆れているようにも感心しているようにも聞こえる声音でアルが呟くと、彼女の隣で同じように酒盛りを見ていたボールスの口元に笑みが浮かんだ。

「一番わかりやすい表現方法だからね。酒を酌み交わして、互いの無事と勝利を喜び合う。言葉で伝えるのは照れくさいけれど、酒の力を借りれば簡単に出来るから」

「別にお酒に頼らなくても、普通に話せばいいだけなのに。そんなに難しいことじゃないでしょう?」

今度は呆れたように肩をすくめる少女王に、ボールスはくすりと笑ってみせた。

「そうだね、姫王はわりと何でも、素直に口にしてしまうから。その辺の気持ち、君にはまだ理解しにくいかもしれない」

「それって、私はまだ子供っぽいってこと?」

「いいや。我らが姫王は、素直で可愛いってことだよ」

言ってアルの顔を覗き込むと、酒をまだ呑んでいないはずの彼女の顔にさっと朱が走った。

「ボ、ボールス!」

「ははははっ」

そういえば落ち着いて見えているが、ボールスもつい先ほどまで、あの男たちの輪の中にいたのだ。呑み干したワインはおそらく、一杯二杯では済まないだろう。

そう考えればきっと彼もそれなりに酔っていて、だからいつにない軽口をきいてくるのだろうとアルは思った。

それが嫌だというのではなく、むしろ彼女が一人でいるのを見つけ、仲間たちの元を抜けて側に来てくれた彼の気遣いは嬉しかった。

それに引き換え、アルが一番お気に入りの騎士殿は、率先して酒盛りの中心に居座っており、彼女のことなどすっかり忘れたように盛り上がっている。

彼の楽しそうな様子を見ればこちらも笑みが浮かんでくるが、それと同時にかまってくれない寂しさも込み上げる。だからボールスが側に来てくれて、こうして話し相手になってくれたのは本当に嬉しかった。

「ありがとう、ボールス」

「ん? どうしたんだい?」

感謝の言葉を素直に口に出すと、ボールスは彼女を見下ろして首をかしげた。しかしその口元に笑みが浮かんでいるのを見れば、たぶん彼女の言葉の意味をわかっているのだろう。

だからアルも説明するのをやめ、彼の顔を軽く見上げてふふっと笑った。

「ボールスはボールスだってこと。お酒が入っていても、入っていなくても」

「それは、褒められていると受け取っていいのかな?」

「もちろん。王の言葉を信じなさい」

「これは失敬。では謹んでお受けしましょう、姫王よ」

恭しく頭を垂れるボールスに、アルは再びくすくすと声を立てて笑った。それから顔を上げるボールスに目を細め、視線を再び広間の喧噪へと移した。

「もし私が男だったら……あの皆の輪の中に入って、一緒にお酒を呑めたんだろうな」

「仲間に入れなくて寂しい?」

穏やかなボールスの声に、アルは小さく笑んでから軽く首を傾げた。

「そうね……寂しいのかもしれない」

「曖昧な答えだね」

「……うん」

軽くうなずいて視線を伏せるアルの横顔を、ボールスは黙って見つめたまま言葉の続きを待った。するとアルは軽く肩をすくめ、振り返ると困ったように眉尻を下げた。

「最近ね、戦場でも城の中でも、どうして私は男じゃないんだろうって思うことが増えたの。どうして私は女に生まれてしまったんだろうって」

「姫王……」

ボールスが驚いたように目を見張ると、アルは軽く首を振って目を細めた。

「誤解しないで。女だから出来ない、なんて言い訳をするつもりではないの。体力とか威厳とかどうしたって男性に劣る部分はあるけれど、それを補う方法はいくらでもあるはずだもの。そういうわかりきったことではなくて……」

例えばこうした場でも男の王であれば、広間の騎士達に混ざって肩を組み、戦場での活躍を肴に酒を呑み交わして、『王と臣下』としてだけではない『男同士』の交流を深めることだろう。そしてそれは、お互いの絆をより深く強固な物へと変えてゆくはずだ。

けれどアルは女だ。いかつい男達の輪に混じって酒を酌み交わすことにはやはり抵抗があるし、仮にそれを乗り越えたとしても、今度は逆に彼らの方が、まだ幼さの残る少女王に対して遠慮をしてしまう。

それはアルが長じたところで、恐らくは変わらないだろう。彼女が女である限り、絶対に越えられない垣根が互いの間には存在し続けるのだ。

「そう……どうしたって…越えられない壁なんだわ」

ボールスの存在に安心してしまったのか、アルはつい口から漏れた言葉に気がついてはっと息を飲んだ。そしてこちらを凝視しているボールスに目を向けると、慌てて笑顔を浮かべて両手を振ってみせた。

「ごめんなさい、せっかくの戦勝の宴だって言うのに」

「いや……」

曖昧な表情を浮かべるボールスに、アルはくすりと笑ってみせた。

「誰にもどうしようもないことを考えてる暇があったら、私にしか出来ないことをしていくべきだってわかってるから。今のは、お酒の席でのちょっとした愚痴だから忘れて、ボールス」

言ってもう一度目を細めてから、アルはボールスから視線を外して半歩後ろに下がった。

「なんだかお酒の匂いに酔っちゃったみたい。バルコニーで風に当たってくるね」

「ついていこうか?」

ボールスの気遣わしげな声音に、アルは微笑んだまま軽く首を振った。

「大丈夫よ、ちょっと外の空気を吸ったらすぐに部屋に戻るから。あなたは皆のところへ戻って楽しんで」

「姫王…」

躊躇いがちに歩み寄ってくるボールスの気配を感じながら、アルはそれに気がつかない振りをしてきびすを返すと小走りにホールを横切った。