「そうね……実は、わたしも気になっていたの。アンジェがどんなタイプの殿方に惹かれるのかを知っておくのも、親友の務めだと思うし」
「そうそう。ハンナもわかってるじゃなーい♪」
思わぬ援軍を得たサリーは大きくうなずくと、頬を赤らめて顔を伏せるアンジェリークのほうへ、再び身を乗り出して迫った。
「赤くなるってことは……やっぱりいるのね。ね、誰なの、教えてよ?!」
「だ、誰って言われても……そ、そんな特別な人なんて」
赤くなったまま一生懸命否定するアンジェリークだったが、サリーは追撃の手をゆるめようとはしない。視線を天井に向けるようにして口を紡ぐと、なにか考え込むように「うーん……」と唸って腕を組んだ。そしてハンナを振り返り、笑みを浮かべながら口を開いた。
「私はレイン博士だと思うんだけど。のんびり屋のアンジェは、あのくらいキビキビした人に引っ張っていってもらった方がいいんじゃない?」
するとハンナは少し考えるように首を傾げてから、微かに笑みを浮かべた。
「わたしはニクス様だと思うわ。大人でお優しくていらっしゃるもの。アンジェみたいにおっとりした人には、同じくらいの歳の方よりも、あれくらい包容力のある方がお似合いなんじゃないかしら」
自分の意志とはまったく関係ないところで、いつの間にか自分の好きなタイプを決められていることに、アンジェリークは頬を赤らめたまま抗議の声を上げた。
「ち、ちょっと二人とも! わたし、レインもニクスさんもとても大切な仲間だと思ってるわ。でもそんな特別だとか好きだとか、そういうんじゃなくてっ!」
必死でそう告げた途端、サリーとハンナの視線が同時にアンジェリークに向けられたかとおもうと、彼女たちの口は再び同時に動いた。
「じゃあ、ジェイドさん?」
今日もここまで送ってくれた青年の名前が出たとたん、それまでは頬がほんのり桃色に染まっていただけのアンジェリークの顔が、全体に真っ赤になった。
そうして彼女が思わず二人から視線を背けてうつむくと、サリーとハンナはお互いに顔を見合わせ、そして同時に微笑んだ。
「そういえば、アンジェのお手紙には、いつもジェイドさんのことが書いてあったわ。ご一緒にお菓子を作ったとか、お仕事の合間にどこに出かけたとか」
「え? ハンナったら、なんで先に言ってくれなかったのよ。わたしが知ってたら、すぐにわかったのに」
「ごめんなさい。だって、いま思いあたったんだもの」
困ったように微笑むハンナの態度に小さくため息をついたサリーだったが、二人の会話に口をはさむことも出来ないくらい恐縮してしまったアンジェリークの様子に、くすりと小さく笑って席を立った。そして赤い顔をしてうつむいているアンジェリークの両肩を、励ますように優しく両手で包んだ。
「アンジェってば、やだ、そんな顔しないでよ。わたしは別に貴女をいじめようとか、からかおうとか、そんなつもりで聞いたんじゃないんだから」
サリーの言葉に、アンジェリークは上目遣いにちらりと彼女を見上げたが、その視線には恥ずかしさと恨めしさが綯い交ぜになっていた。するとハンナも席を立ち、穏やかな笑みを浮かべ二人の方へ歩み寄ってきた。
「そうなの、アンジェ。聞き方が強引だったのは謝るけれど、わたしたち、むしろ貴女を応援したくて」
「……応援?」
アンジェリークが小さく首を傾げると、彼女の肩を掴んでいたサリーの指に、ぐっと力がこもった。そして彼女はその場に屈んでアンジェリークの顔を覗き込み、やけに真剣な表情を浮かべて口を開いた。
「応援というよりも『恋の秘伝伝授』ってとこね!」
「……え?」