耳に残るは君の歌声

(3)

「……それで貴方は、ジェイドにも尋ねたのですか。皆のいる、夕食会の席で……」

ニクスが苦笑を浮かべながら問うと、ヒュウガは決まりわるげに視線を落とした。

「……まさか、ジェイドが彼女に教えた歌だとは知らなかったのだ」

ヒュウガは呟くと申し訳なさそうに目を閉じたが、ニクスは口元に笑みを浮かべたまま、ティーカップへと右手を伸ばした。

「まぁ、ジェイドはあの性格ですからね。我々が聞けばなんのてらいもなく話してしまいますが」

亡くなった友人から教わった歌を、アンジェリークに教えたこと。コズの海が見える丘で、二人で一緒に何度も練習したこと。

それらはジェイドにとって、なんの後ろめたさもなかった行為だし、秘密でもなんでもなかったから、彼はヒュウガに問われるまま、正直に話したのだった。ジェイドの口から言葉が漏れるたびに、顔がどんどん赤くなっていくアンジェリークには、まったく気がつかないまま。

「疑問を持つなとは言えないが、どうせ聞くならせめて時と場所を選んでくれ」

年下のレインに呆れたように呟かれ、一瞬カチンときたヒュウガだったが、確かに彼の言うとおりだったので、ただ黙って拝聴しているしかない。 するとニクスが、わけしり顔で紅茶を飲んでいるレインの方へ視線を向けた。

「これはこれは。レインくん、君も成長しましたね」

「……どういう意味だよ」

ニクスの言葉に、ふてくされた表情を浮かべるレインに意味ありげな笑みを返したニクスは、改めてヒュウガの方に向き直った。

「まぁ、レインくんの過去はともかくとして、やはり年頃の女性には、いろいろ隠しておきたいこともあるのですよ」

ニクスがそう呟くと、ヒュウガは小さくうめいた。

「…………肝に銘じておく」

憮然とした表情で神妙にうなずくヒュウガを見つめながら、レインは小さくため息をつくと肩をすくめた。

「とりあえず、だ。いまオレたちに出来ることはないみたいだし、そろそろお開きにしようぜ。アンジェリークの籠城が明日まで続くようなら、その時にまた考えればいいさ」

言いながら立ち上がり、大きく伸びをするレインの隣で、ニクスもゆっくりとうなずいた。

「そうですね。今夜はひとまずジェイドに任せるとしましょう」

「ま、適任っていうか、それは当然だろ」

「……俺の失態で、ジェイドには大役を任せてしまったな。悪いことをした」

ヒュウガの神妙な言葉に、レインは呆れたような表情を浮かべた。

「ヒュウガ。あんた、本っ気でわかってないのか?」

「なにがだ?」

真顔で問い返すヒュウガの態度に、レインは絶句したが、ニクスは逆に楽しそうに微笑んだ。

「まぁまぁ、レインくんもその辺で。大丈夫、心配はいりませんよ、ヒュウガ。おそらく明日になれば我々は、恥ずかしがり屋のマドモアゼルの愛らしい笑顔を、また見ることが出来るでしょう」

自信ありげなニクスの言葉に「だからニクス。何故そう言い切れるのかと聞いているのだが?」と再び問いながら、ヒュウガは怪訝そうに首をかしげた。

おわり