薄衣の向こう

(20)

那岐は朝から機嫌が悪かった。

昨日も朝から千尋の後始末に駆り出され、ようやく一段落して昼寝を満喫しようとしたところへ、その千尋とサザキに邪魔をされようやく追い払ったと思ったら、今度は千尋の護衛に付いた布都彦が「那岐、姫が大変だ! お加減を見てくれ!」と血相変えて詰め寄ってきたので渋々見に行ったものの、真っ赤な顔をした千尋は熱など出したわけではなくただ柊にからかわれただけだということが分かり、そうこうしているうちに夕餉の時間になってしまったものだから、結果的に一日中千尋達に振り回されて昼寝をしそこねてしまったのだ。

そして今朝は今朝で、やけに早く目が覚めてしまったのが癪で、寝場所を変えれば気分も変わるかと寝所を抜け出して宮殿内をこっそり歩き回っていたのだが、運の悪いことに老人並に早起きな風早に見つけられてしまった。

しかもあろうことか、珍しく早起きをした那岐を捕まえた風早は、忌々しいほど朗らかな笑顔を浮かべてこう言ったのだ。

「ああ、いいところに。土器の錬りに予想以上に手間取ってしまってね。もう少しなんだが、今は手が離せないんだ。だから、今日は君が千尋を起こしに行ってくれないか?」

「なんで、僕がこんなこと……」

『仏頂面』という表現がこれほど似合う表情はないというくらい不貞腐れた様子の那岐は、それでも真面目に千尋の部屋へ向かっていた。

そうして常の倍以上時間をかけて目的地に到達した那岐は、入口に扉代わりにかかった薄衣を部屋の主に伺いをたてる前に乱暴に払いのけて中に入っていった。

「千尋、入るよ」

断わる前にすでに入っているのだが、そんなことはまったく関知せずに那岐は足音高く奥に進み、目隠し代わりの衝立を横にずらして「もう朝だってのに、いつまで寝てるんだよ」と少々苛立った調子で言ってから、牀の方へ目を向けさすがに立ち止まった。

牀の周りの床には、ところどころに羽根が落ちている。

それは那岐が入ってきた空気の流れでふわりはらりと何枚か舞っていたが、しばらくするとまた床の上でおとなしくなった。

そうして牀の上では、おそらくこの羽根の持ち主であろう日向一族の海賊(自称)と中つ国の若き女王が、まるで雛鳥が身体を温め合っているように、ぴったりと寄り添って眠っていた。

しばらく那岐は目の前の光景を見つめていたが、やがてくるりときびすを返すと小さく肩をすくめた。

「わかってないとは言ったけどさ……たった一日でわかりあい過ぎじゃない?」

そのまま那岐は、二人に声をかけず部屋を後にした。あの状況で声をかけようものなら、どうやっても面倒に巻き込まれるのは確実だ。

「さって、どうしようかな。風早にすぐ教えたらつまらないよね。……昨日の仕返しで、布都彦でも呼ぼうかな」

 

純粋培養の塊のような少年が、あの状況を見て慌てふためく様を想像しながら歩く那岐の足取りは、いつもよりほんの少し軽やかだった。

おわり