最近、千尋と話していると違和感を感じることがある。
彼女と話すのがつまらないわけではない。むしろ日々の雑事の合間をぬって、わずかな時間を作っては自分のところへ来てくれる事実は、なによりも嬉しい。
だがこうして彼女と話していると、何故だか二人の間に距離を感じるようになっている。それを不快に思って顔をしかめると、千尋は自分の多弁さが彼の気に障ったのだと思ったらしく、目を見張るとすぐに表情を曇らせた。
「ごめん、愚痴を聞かせちゃって」
「ん……ああ」
反射的に口をついた肯定の言葉に気がついたサザキは、すぐに己の発言を撤回するために何度も首を振ってみせた。
「わわっ! 違うぜ姫さん! 嫌だとかそういうんじゃなくてだな!」
「でも……すごく嫌そうな顔してた」
「だから違うって! あーなんだ……そ、そう生まれつき! この顔は生まれつきなんだってのっ!」
そう言って大げさに両腕を振り回したサザキは、わざとらしく眉をひそめて口を尖らせた。
「な。オレはいっつもこんな顔してるだろ?」
まるで子供をあやすように百面相をするサザキの顔をぽかんと見つめていた千尋は、やがて眉尻を下げると目を細め、くすくすと笑い出した。
「あはは、サザキったら。ほんとにそんな顔になっちゃうよ」
「ホントもなにも、オレの顔はこーなんだよ」
「もうやめて。笑いが止まらなくなっちゃう」
ころころと笑う千尋の様子に、サザキもつられて笑い出した。そしてようやく浮かんだ千尋のこの笑顔は、今まで感じていた違和感をサザキの胸の内からいともあっさり払いのけてしまう。その感覚にサザキが「…あ」と思わず声を漏らして怪訝そうに首を傾げたものだから、それを見ていた千尋も同じように首を傾げた。
「サザキ? どうかした?」
「いや……なんでもねぇ」
不自然にならないようにと気をつけながら微笑んだサザキは、千尋の頭に右手を伸ばし、切り揃えられた髪を慈しむように撫でた。
「姫さんがようやく笑ってくれてほっとした。さっきからずーっと、小難しいツラしてたからなぁ」
「そ、そんなすごい顔してた?」
照れくさそうに頬を赤らめたが、サザキに髪を梳かれるのは心地良いらしい千尋は、彼の手の動きを止めようとはしなかった。だからサザキも彼女の柔らかい髪の感触を楽しみながら、ほんの少し目を細めた。
「そうさ。ここんとこしわが寄っちまって、せっかくの可愛い顔が台無しだったぜ」
言いながら左手で千尋の眉間を軽く小突くと、千尋は目をぎゅっとつぶりながら抗議の声を上げた。
「いたっ!」
「へへっ。姫さんこそ、んな顔になっちまわねぇよう気をつけないとな」
「もうっ! 痛いってばっ!」
悲鳴に近い声で抗議をする千尋の顔は真っ赤だ。だが訴えるほど嫌がっていないことは、見上げてくる表情が幸せそうに微笑んでいることでよくわかる。
そんな自分にだけ向けられる潤んだ瞳と艶やかな唇を見つめているうちに、うっかり疾しい気持ちがこみ上げて来たサザキは、慌てて手を引っ込めるとぎこちない笑みを浮かべた。
「あー……と、とにかく、あれだ。別に気にすることなんかねぇから、話したいことがあったら真っ先にオレのとこに来てくれていいぜ。どんなことでも、姫さんが話したいことは、全部オレが聞いてやる!」
うろたえながら必死で言い募るサザキを観察していた千尋だったが、彼が照れ屋なことは十分承知しているから、急に手を引っ込めて視線を彷徨わせる様子に疑念など持たず、目を細めて微笑みながらこっくりとうなずいた。
「ありがとう。風早とか柊にも相談してるし、何でも話して欲しいって言われてるけど、二人は専門家の立場から話してくれるのね。だから、時々話が難しくなっちゃって……」