サザキはその場で、うずくまるようにして頭を抱えていた。背中の羽根も心なしか、しおれて地面にぺたりと落ちているように見える。
千尋は不安げに眉をひそめ、そろそろとサザキの前に歩み寄るとその場にしゃがみ、うつむいたままで唸っているサザキの顔を覗き込もうとした。
「サザキ……具合でも悪いの?」
「……いや、な、なんでもねぇ……ううっ……」
返した声がなんとなく涙声に聞こえるのが気になるが、千尋はもうそろそろ帰らなければならない。
「あの……そういえば、さっきはなんて言おうとしてたの? 私、肝心なところを聞いてなくて……」
「……へ?」
思わず顔を上げたサザキの目の前で、千尋が申し訳なさそうに彼を見つめている。どうやら本当に、サザキの絶叫にも近い告白が聞こえなかったらしい。
「……マジかよ……一世一代、大決心だってのに……」
またへなへなと崩れ落ち盛大なため息をつくサザキの様子に、千尋は申し訳なさそうに頭を下げた。
「ご、ごめん。遠夜が来るって思ったら、そっちに意識が行っちゃって……本当にごめんね」
サザキの落ち込みようが激しいので、きっと自分はとんでもなく重要なことを聞き逃してしまったのだろうと思った千尋は、しゅんと肩を落としてうつむいた。
そんな彼女を上目遣いに見つめていたサザキは、やがてひとつため息をつくと顔を上げ、千尋の頭をくしゃくしゃとかき回すように撫でた。
「……も、いいって。それより、もう行かなきゃいけないんだろ? みんな待ってるぜ」
「うん……でも、サザキの話の続き……」
「あー……うん。ま、オレのはたいした話じゃねえから……また今度な」
「そう? サザキがそれでいいなら、いいけど……」
「ああ。オレがこの国にいる間でいいんだ、うん」
それはそう遠くない先だけれど、いま慌てて言わなくてもいい。というか、焦って告げるべき言葉ではない。
「やっぱ雰囲気とか場所とか、もうちょっと考える必要があるな。……今度は邪魔されたくねぇし」
「サザキ?」
「ん? いや、なんでもないぜ」
サザキがにこっと笑ってそう言うと、最初は疑わしそうな目線を送っていた千尋だったが、やがて肩を落として微笑みながら立ち上がった。
そしてサザキの方へ手を差し出すと、屈託ない笑顔を浮かべた。
「じゃあ、一緒に行ってくれる? 調練の後、風早がお茶を入れてくれるから、付き合ってくれると嬉しいんだけど」
伸ばされた千尋の手の方へ腕を伸ばしかけたサザキは、逆光がチカリと反射し、眩しそうに目を細めた。
その瞬間、目の前の千尋の背に大きな羽根が広がったように見えたが、驚いて瞬きをすると、それはすぐに消え、光の中で千尋の影が首をかしげるのがわかった。
「サザキ……?」
「あ、ああ……」
返事をしてサザキは、かすかに微笑んだ。そして千尋の手を取って立ち上がると、彼女をまじまじと見ながら安堵のため息をついた。
「……よかった。生えてねぇ」
「え? やだ、まだ心配してるの?」
そう言ってくすりと笑う千尋の手を、サザキはもまた笑いながらぎゅっと握り返した。
「そりゃあ心配するさ。オレの大事な姫さんが、どっか飛んで行っちまったらかなわねぇからな」
「行かないってば……サザキが、私の手と心を、ちゃんと掴んでくれてるから」
「……そっか」
千尋の言葉に、サザキは嬉しげに目を細めた。そして彼女の手を引っ張るようにして前に進むと、半歩振り返った。
「それではお供しましょう、お姫様。お望み通りどこまでも、な」
――姫さんの背には、見えない羽根がある。
だから彼女はもしかしたら、オレのもとから飛び立ってしまうのかもしれない。
けど、それは夢の中の話だ。現実のオレには翼があり、姫さんを抱いてどこへでも飛んでいける。姫さんと並んでいける。
だから飛び立つときは、二人で一緒にだ。
どこへでも、どこまででも――。