「いったぁ……」
小さく呟いて顔をしかめると、頭をぽんとたたかれた。そしてその手は、望美の頭をくしゃくしゃと撫で回し、ついで押し殺したような笑い声が頭の上から振ってきた。
「お前、ほんっとドジだな。ガキの頃から、ちっとも成長してねぇじゃん」
「もぉっ! こんなところに段差があるから悪いんだよぉ!」
ぷっと膨れっ面を浮かべて上目遣いに見上げると、将臣が意地の悪い笑みを浮かべて彼女を見下ろしていた。
「そういうの避けて歩くのが大人だろ。注意力散漫」
「将臣くんに、大人のなんたるかを言われたくありませーん」
「そう言われちまうと、反論のしようがねぇなぁ」
くっくっと楽しそうに笑いながら将臣は、もう一度望美の頭をくしゃっと撫でてから手を離すと、身体を少し屈めて彼女の脇の下にするりと腕を通し、そのまま起こすようにひょいっと持ち上げた。
「ほぉらよ、お立ち下さい神子さま」
「ひゃあ!!」
顔を朱に染めて小さな悲鳴を上げた望美は、将臣の手が離れた途端に「ぅうっ!」と呻いて小さく顔をしかめ、またその場にしゃがみ込んでしまった。
「……望美?」
彼女の様子にさっと笑いを引っ込めた将臣は、その場にすっと腰を落とした。すると望美は首だけで振り返ると、困ったような笑みを浮かべる。
「だ、大丈夫、たいしたことないって」
「んなわけねぇだろ。見せてみろ」
ぼそりと呟くと将臣は、険しい表情を浮かべて望美の足に手を伸ばした。
「こっちか?」
将臣の問いに「…うん」と小さくうなずくと望美は、彼の手が足に触れた途端にびくりと身体を震わせた。
だが将臣は反応せず、無言で彼女の足から靴を脱がせて、足首をつかむと軽く動かした。
「ちょっと腫れてるな。……望美、ここ押すと痛いか?」
「いっ…たっ!!」
悲鳴を上げて顔をしかめる望美を振り返った将臣は、彼女の足から手を離すと自分の顎を軽くなでた。
「靭帯は切れてないぜ。くぼみに足がはまってひねったみたいだ。明日になったら、今の倍くらい腫れてくるかもな」
「そっか…」
望美が小さく溜息をつくと、将臣は「大変だなぁ。太い足がさらに太くなっちまうぜ」と楽しそうに笑う。
そんな将臣を軽く睨んだ望美だったが、彼がすっと自分に背を向けた途端に、怪訝そうな表情を浮かべた。
「…将臣くん?」
すると将臣は腕を後ろに回し、くいくいと指を動かした。
「ほら、掴まれ。おぶってやるから」
「え。い、いいよ!」
慌てて手を振る望美をちらりと振り返り、将臣は怪訝そうに眉をひそめた。
「いいって、お前歩けねぇだろ。まさかこんなとこで、足が直るまで待ってろってのか?」
「う…」
言葉に詰まる望美から視線を逸らすと、将臣は前を向いて少しだけ語気を強くした。
「ほら、望美!」
「……わかったわよ、もぉ」
しぶしぶといった風に小さく溜息をつくと、望美はのろのろと上体を動かして将臣の広い背中に身体を預けると、肩にそっと手を添えた。
「ちゃんと掴まったか? 立つぞ?」
「うん、大丈夫」
望美がこくんとうなずくと、将臣は彼女の靴を手に持ったまますっと立ち上がり、背負った望美の身体を軽く持ち直すように揺すり上げてから歩き出した。