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似た者同士

(1)

羽柴秀吉は腕を組んだ状態で胡座をかき、しばらくの間は相手の出方をうかがうように口をつぐんで険しい表情を浮かべていた。

しかし、どれだけ待っても目の前の客人は口を開こうとはせず、表情のうかがえない前髪を常よりもさらに垂らすようにしてうつむいたまま、時折膝の上に置いた指先を所在なげにもじもじと動かしている。

このまま彼の言動を待っていては、きっと日が暮れるどころではなく数十年も経ってしまいそうだと判断した秀吉は、ひとつ息を吐き出すと組んだ腕をゆっくりとほどいた。そして秀吉の気配が動いたことに反応して微かに肩を震わせた客人の様子に目を細めつつ、首の後ろを軽く掻いた。

「で、家康殿……オレは、いつまでこうして待ってりゃいいんでしょうねぇ?」

すると秀吉の前できっちりと正座していた大柄の青年=徳川家康はまた肩を震わせてから、恐る恐る顔を上げながら上目遣いに秀吉を見つめた。

「す、すみません……」

「まぁ、別に謝る必要はねぇですが。あんたの心の準備ができたらでいいって言ったのは、オレの方ですし? けど、オレもこれでなかなか忙しい身なもんで……」

そう言って大げさに肩をすくめてみせると、家康はやや恨めしげに秀吉を見てから、改めて視線を落としてぼそりと声を漏らした。

「……すみません」

謝るくらいならば、いい加減覚悟を決めて来訪の目的を話せばいいだけじゃねぇか、と秀吉は思ったが、そう簡単に話せるような人物ならば、今まで二人でにらめっこなどはしていないはずだ。

『まいった……いくらおとなしいにしたって、限度ってもんがあらぁな』

胸の内でうそぶいた秀吉はもう一度ため息をついてから、ちらと家康の伏せた頭に目を向けると、ふっと口元に薄い笑みを浮かべた。

「家康殿だって、そう長いことここにおったらまずいのじゃないですか? いくら行き先を伝えてきたと言っても、いつまでもあんたが戻らなきゃ、三河の旦那方だって心配なさるんじゃないかと思いますよ」

「……そうです…ね」

こくりとうなずく家康の様子は、秀吉よりも遥かに図体が大きいというのに、まるで親に諭される幼子のようだった。

そんな青年の姿にいささか良心は痛むが、このまま無言で居座られても困る。仕事に差し障るということはないが(むしろサボる理由にできる)、いつまでも相手をしていられないというのは事実だ。そこで秀吉は意を決したように身を乗り出すと、再び顔を上げた家康の顔をじっと覗き込んで真顔を浮かべた。

「そうなりゃ、いらん誤解を生むかもしれない。家康殿がいつまでも戻らんのはオレが監禁してるからだ!なんてね。挙げ句、すわ、秀吉邸に打ち入ってご主君をお救い申し上げようぞ!なんてことになっちまったら……さて、どうなさる?」

秀吉の思惑通り、家康は前髪の下に隠れている目を大きく見開いたかと思うと、先ほどまでのぼそぼそとした声ではない大声を上げて両手を大きく振った。

「い、いくらなんでも、そのようなことはしませんっ! 僕が必ず止めてみせます!」

すると秀吉はにやりと笑って身を引き、再びどすんと腰を落として腕を組んでからまたにこりと笑った。

「うん! ちゃんと声を出せるじゃねぇですか。その調子で、腹ん中に溜めてるもん、ぱあっと一気に吐き出しちまったらどうです?」

先ほどとは違う暖かみのある秀吉の言葉に、家康はまた大きく目を見開いた。しかしすぐに目を細めると照れたように微笑んでから視線を伏せ、ゆっくりと深い息を吐いた。

「……そうですよね。自分から出向いておきながらいつまでも何も話さないなど…あまりにも失礼な振る舞いでした」

言って顔を上げた家康は秀吉をひたと見つめ、そのまま深々と頭を下げて秀吉を面食らわせた。