すっかり馴染みになったコンビニ『ハラショー』のガラス越しに空を見上げた火積司郎は、黒く広がる雲と地面を叩く雨の音に眉をひそめた。
「降ってきちまったか」
そこへ会計を済ませた小日向かなでがビニール袋を抱えて駆け寄ってきて、火積の視線を追いかけて小さくため息をついた。
「あーあ。もう少し持つと思ったのに…」
隣に並んだかなでの顔をちらっと見おろし、火積はまた店の外の地面で跳ねる雨の粒に目を向けた。
決して大振りではないが、この調子で降り続けていたら、菩提樹寮に戻るまでにはびしょ濡れになるだろう。それでも自分一人で来ているなら、走って帰るという選択肢もある。
しかし今はかなでが一緒だから、火積の全力疾走に彼女が追いつけるわけがない。かといって彼女のペースに合わせて走れば、二人揃って全身濡れ鼠になることは確実だ。それでは走って帰る意味がないし、なにより火積は、かなでをそんな目に合わせたくはない。
「しばらく止みそうにないね。なんだか…段々強くなってる気がする、かも」
かなでの不安げな声にもう一度空を見上げた火積は、雨が止みそうにない事を確認すると、かなでの肩を軽く叩いてレジの方へ歩き出した。
「少し、待ってろ…使い捨ての傘、買ってくる」
「え? あ、うん…」
こくりとうなずくかなでを残し、火積はくるりときびすを返した。
――居たたまれない、というのは、こういう状況を言うのではないだろうか。 夏の盛りに降り出した雨の中、コンビニで買ったビニール傘をさして歩きながら、火積は身の置き所に困って無口になっていた。
すぐ隣、それこそ数センチ身体を横に動かしたら触れてしまうくらい近くに、かなでの華奢な身体がある。それを意識しないようにすればするほど足下が緊張して、火積は先ほどから何度も傘から肩を出してしまい、その都度かなでに注意されていた。
『んなこと言ってもよ……あんま傘ん中にはいると、あんたにぶつかっちまうじゃねぇか』
なんとなくそうは言えなくて、火積はかなでに声をかけられる度に「ああ…うっかりしてた」ときまり悪げに視線を逸らすしかなかった。
『……こうとわかってたら、あん時、無理にでも二つ買っちまえばよかった』