「――なんか、まるでエンゲージリングの交換みたいな雰囲気ですよねぇ?」
呆れたようにつぶやいて肩をすくめる水島新の気配に、隣でガラス細工の猫の置物に手を伸ばしていた八木沢雪広は小さく笑ってみせた。 ここは小さな土産物屋だから、店内の話し声など筒抜けだ。だから火積とかなでのやりとりも、聞く気がなくとも耳に入ってきてしまう。
「あーっ! かなでちゃん、火積先輩になんかプレゼントするって言ってる! いいなぁ、オレもかなでちゃんからプレゼントもらいたーいっ!」
火積の腕をしっかりと掴み『幸運を呼ぶミサンガ!』とポップがついたブレスレットを物色しているかなでを、じたばたしながら観察していた新は、ぷっと頬を膨らませると彼らの側へ行こうと歩き出した。
「水嶋。邪魔をしてはダメだよ」
そんな新にぴしゃりと釘を刺すと、恨めしげに振り返る後輩に向かって、八木沢は目を細めてみせた。
「またしばらく会えなくなるんだから、出来るだけ二人っきりの時間を作ってあげないとね」
「もぉ八木沢部長、火積先輩に甘すぎですよー」
新の言葉にくすりと笑った八木沢は、かなでと並んでようやくレジに向かう火積の照れ臭そうな横顔を遠目に見ながら、口元に優しい笑みを浮かべた。
「そうかもしれない。でも……あの二人を見ていたら、なんだか応援したくなってくるだろう?」
八木沢のつぶやきに「……そうかなぁ」と怪訝そうに新が首を傾げたところで、店の入口から如月響也がひょっこりと顔をのぞかせ、かなで達の姿を認めると笑みを浮かべて中に入ってきた。
「あー、いたいた。って、至誠館も一緒だったのか」
振り返ったかなでに安堵し、彼女の頭越しに睨んでくる(本人は睨んだつもりはない)火積にびくりと身体を震わせた響也は、近づいてきた八木沢と新に慌てて視線を移して口を開いた。
「東金が、昼メシ案内してくれるってさ。この先の神戸牛の店でおごってやるから、好きなだけ食っていいって」
響也の言葉に一番反応したのは新だった。彼は瞳をきらきらと輝かせると、響也の両肩をがしっと掴んで前後に揺さぶった。
「はいはい、食べる食べる! 響也さん、早く! 早く行きましょっ!!」
「うわわっ! わーったから、んながくがく揺するなっ!」
「水嶋、お、落ち着きなさい!」
慌てて新を響也から引きはがした八木沢は、そこでようやくほっとため息をついた。そして響也の後を追って新が店を飛び出すのを見送ると、かなでと火積を振り返ってにこりと微笑んだ。
「水嶋が他に気を取られている、今がチャンスですよ」
「え…?」
「八木沢部長…?」
「邪魔をされないよう、プレゼント交換を済ませてから追いかけて来てください……それじゃ、お先に」
言ってくるりと背を向けて店を出て行く八木沢の背を見送った二人は、やがてどちらからともなく目を見合わせると、ほぼ同時に顔を赤く染めた。