「これなんかどうかな?」
赤い水玉模様のシュシュを腕にはめた小日向かなでは、振り返って小首をかしげた。その様子に火積司郎は眩しげに目を細めると、小さくうなずいてみせた。
「ああ……いいんじゃねぇか」
するとかなでは火積を上目遣いに見ながら、ぷっと頬を膨らませた。
「もぅ。火積くん、さっきからそれしか言ってないよ」
「そ、そうか?」
彼女の意見を肯定しただけなのにそれを抗議され、火積は怪訝そうに眉をひそめた。その表情をちょうど通りかかった店員が盗み見てびくりと身体を震わせたが、彼の前でシュシュをいくつか持った小柄な少女はまったく怯んだ様子もなく、火積を見ながら可愛らしく口を尖らせる。
「私は妹さんに会ったことがないから、火積くんの情報だけが頼りなの。だからちゃんとアドバイスして」
「それはわかってんだが……妹っても、女の好きそうなもんなんか見当もつかねぇ」
申し訳なさそうに頭をかく火積を見つめていたかなでは、やがて表情を和らげると口元に笑みを浮かべた。
「じゃあ……これとこれ、どっちが似合うと思う?」
言って彼女が手にしたのは、淡いピンク色のリボンと澄み渡る空にも似た青いカチューシャだ。二つを自分の頭に当てて振り返ったかなでは、火積を見上げて「どう?」と首をかしげた。 突然の問いかけに戸惑った火積だったが、眉間にしわを寄せてかなでを凝視した。
その表情を視界の端に捉えた店員がまた恐ろしげに後ずさったが、火積は気づいた様子もなく、やがて「……青いほう、か」とぼそりつぶやいた。するとかなでは満足げに微笑み、右手に持っていたピンクのリボンを売り場の棚に戻すと、今度はモスグリーンの髪留めを手にして先程と同じように自分の髪に当ててみせた。
「この二つだったら、どっち?」
言われてまた目を細めた火積は、かなでの両手にある青と緑を何度も見比べた。
彼女の雰囲気には、青の方が似合うような気がする。だが火積の視線は、どことなく自身の制服の色に似ているからだろうか、深い緑色の花がちりばめられた髪留めの方に自然と流れていってしまった。
――彼女が身につけるならこっちだ。出来るなら、自分と同じ色を身にまとって欲しい。
「火積くん? どうしたの?」
声をかけられて我に返った火積は、かなでに不思議そうに見つめられていることに気がついて思わず視線を逸らした。だが、かなでが身体ごと彼の顔を追いかけてくるので、とうとう観念したのか顔を赤らめたまま小さくため息をついた。
「緑……そっちの緑のほうが、あんたには似合う、と思う」
「え?」
火積の答えに、今度はかなでが驚いたような声をあげた。そして顔を赤らめると、火積から視線を外してうつむいた。
「あの……私じゃなくて、火積くんの妹さんに似合うのはどっちって……聞いてたつもりなんだけど」
「……あ」
「妹さんの髪の色、私にちょっと似てるって言うから、参考になるかなと思って当ててたんだけど……」と続けるかなでを唖然とした表情で見た火積だったが、すぐに自分の勘違いに気がつくと慌てて彼女に頭を下げた。
「すっすまねぇ! その……あ、あんたがあんまり嬉しそうに聞いてくるもんだから、つい目的を忘れちまったっつうか……。わ、わざわざ土産選び付き合わせといて、なにやってんだか……ほんと、悪かった」
「あ、ううん。そんな謝ってもらうことじゃないから。どっちかというと……その……嬉しいかも」
頭を下げる火積の前でかなでは何度も首を振ると、含羞んだような笑みを浮かべた。そして顔を上げた火積を見上げて、にこりと笑った。
「これ、自分用に買って帰るね。せっかく火積くんが、私のために選んでくれたんだし」
「――小日向」
火積がまじまじとかなでを見ると、彼女はもう一度幸せそうに目を細めて微笑んだ。その笑みにどう返したらいいのかわからなくて、火積は赤くなった顔をわずかに逸らしてため息をついた。
「……あんたといると調子が狂いっぱなしだ。けど、それが心地良いってんだから……まいるよな」
言うと火積はかなでの手から髪留めをそっと取り上げ、怪訝そうな表情を浮かべる彼女を見おろして、ふっと目元に笑みを浮かべた。
「俺があんたのために選んだんだ。だから、俺が買ってあんたに渡すから……受け取ってくれ」
驚いたような表情で火積を見つめ返したかなでは、やがて柔らかい微笑みを浮かべると火積の上着の裾をぎゅっと握ってうなずいた。
「うん……」