言うとかなでは両手をぎゅっと握りしめてうつむき、涙声になりながら言葉を続けた。
「火積くんは私の話ちゃんと聞いてくれるし、相談にだってのってくれるのに。ぶっきらぼうどころかすごく優しいし、私がもたもたしてても怒らないでずっと待っててくれるし。私のペースに合わせるって言ってくれて、全然横柄じゃないもの!」
「こ、小日向さん?」
いきなり火積自慢を始めたかなでに狩野は声をかけたのだが、彼女の耳には届いていないらしい。かなではぱっと顔を上げると狩野と伊織を交互に見比べ、膨れっ面を浮かべたままで更に言葉を続けた。
「だってひどい、火積くんが不良っぽいなんて! あんなに真面目で一生懸命で真っ直ぐで優しい火積くんが、不良のわけないのに! それに顔が恐いなんて……火積くん、笑うと可愛いんだからっ!」
火積の可愛い笑顔なんておれらだって知らねぇよ……と思わず口を突きそうになったが、それをどうにか飲み込んだ狩野は苦笑いを浮かべた。
「あー、うん……火積の笑顔がどうかはともかく、あいつがいいヤツだってのはおれも知ってるからさ」
「そ、そうだよ。火積くんが優しいのもボクは知ってるし。だから小日向さん、落ち着いて」
二人がかりで詰め寄られたかなでは、しばらく二人を睨むように見ていた。が、すぐに自分が何を口走ったのかに気がつくと泣き出しそうな表情を浮かべて顔を真っ赤に染めた。
「あ、あのっ、わ、わたしっ!」
「うんうん。まー、なんつうの? 小日向さん、ホントに火積のこと好…」と言いながら狩野がにこりと笑うと、かなでは彼の言葉を遮るように「きゃーっ!」と悲鳴を上げて立ち上がった。 そして真っ赤な顔で「あ、あのっ。話を聞いて下さってありがとうございましたっ! それじゃ私用事があるのでこれでっ!」と叫んできびすを返すと、一目散に駆け出してしまった。
その後ろ姿を唖然とした表情で見送る伊織の隣で、狩野はにやにやと笑みを浮かべて立ち上がった。そしてかなでの後ろ姿がすっかり遠ざかり見えなくなったところで、口元に笑みを浮かべたままゆっくりと口を開いた。
「……だってさ。よかったな、笑顔の可愛い火積くん♥」
「え? ほ、火積くん?」
狩野の呼びかけに驚いた伊織が振り返ると、ベンチの後ろでしゃがみ込んでいた火積司郎が缶ジュースを両手に抱えたまま立ち上がった。彼は隠しきれない赤い顔を背けつつ、すっかりぬるくなったサイダーの缶を狩野に手渡した。
「あーあ、ぬるくなってんじゃん。もっと早く戻ってこいよな」
「……戻ってたっすよ。けど……んな話してるとこ、顔、出せねぇでしょうが」
「いいじゃん。『小日向、俺も…お前が好きだぜ』とか言ってあげればよー」
狩野が目を細めながら火積の声を真似てみせると、当の本人は顔を赤らめたまま視線を明後日の方に向けた。
「……んなこと、い、言えるわけねぇだろが…」
ぼそりとつぶやいて頭を掻く火積を面白そうに観察した狩野だったが、やがてぬるくなった缶ジュースに視線を落として肩をすくめた。
「なんかなー、後輩もジュースも勝手に熱くなっちまって面白くねーなー。ってことで火積、今日の昼メシ、おれと伊織にラーメンおごれよなぁ」
「なっ! ジュース買ってきたじゃないっすか」
驚く火積を見上げた狩野は腰に両手を当てると、にっと意地の悪い笑みを浮かべた。
「あのな、おれらはお前の可愛い彼女の相談に乗った揚げ句、お前の自慢話まで聞かされちゃったんですよ? そんくらいしてもらわなきゃ、やってられねーだろが。な、伊織?」
「……え? あ、え、と……」
急に自分に話を振られて慌てる伊織を睨むように見た火積は、やがて深いため息をつくとぼそりとつぶやいた。
「ラーメン……だけっすからね」
「おーい! 『お前の可愛い彼女』ってとこは否定しないのかよ。うわー、ムカツク! こうなりゃ餃子もつけてやる!」
「それは、自腹でお願いします」
「おまっ! 先輩に向かってその態度はなんだよ!」「先輩なら、後輩にたかるんじゃねぇ」と騒ぎながら歩き出した狩野と火積の背中を見比べていた伊織は、やがてくすりと小さく笑って立ち上がると、二人の後を追って歩きだした。