Blue star

(3)

「あの……ルヴァ様?」

「え、あ、は、はい。な、なんでしょう?」

ぼーっと彼女に見とれていた私に、アンジェリークは伺うように声をかけてきました。

今日の彼女は、あの、と、とても綺麗なんですよ。

スモルニィの制服を着た彼女も元気な笑顔でとても可愛いのですが、今日の彼女はその、淡いピンクのワンピースがとても良く似合っていて。服に合わせたんでしょうねぇ、大きめのピンクのリボンが金の髪に栄えて風にそよいでいるんです。顔にもほんのりとお化粧していて。大きな緑色の瞳とほんのり光るピンクの唇が、その、と、とても魅力的で。

「やっぱり、変ですか? この格好」

アンジェリークは恐る恐る、と言った感じで言葉を続けました。私はもちろんぶんぶんと首を振り、彼女の不安が杞憂にすぎない事を全身で訴えました。

「本当ですか? よかった」

アンジェリークはほっとしたのか、いつもの笑顔を取り戻してくれました。

「あの、アンジェリーク。その格好は……」

ええ、と彼女は座ったままスカートの端をちょっと持ち上げると微笑みました。

「オリヴィエ様にいただいたんです。今日は特別な日だから、メイクもしてあげるよって。でもルヴァ様の誕生日に、どうして私がおしゃれしてお化粧しなきゃいけないのかしら?」

アンジェリークは首を傾げて考え込む様な表情をしました。

彼女の表情はコロコロ変わり、いつ見ても微笑ましい気持にさせてくれます。……いつからなんでしょうねぇ。このコロコロ変わる表情をいつまでも一番身近で見ていたい、と思うようになったのは。

オリヴィエ、あなたはそんな私の気持に気付いていたんですねぇ。いえ、オリヴィエだけじゃなく他のみんなも……。つくづく私はこういう事には不器用なんだと思い知らされましたよ。

やはり初心者コースから入ったほうがいいみたいですよ、オスカー。私はこんなにもみんなに思われているとは知らなかったのですから。

けれどあなたは教えてくれましたよね。真実の思いなら、必ず相手に伝わると。必要なのは勇気だけだという事を。

 

「綺麗なお花ですね、これ。……わぁ、いい匂い」

アンジェリークは、私の腕に抱えられた花束を改めて見つめるとそっと香りをかいで微笑みました。

ああ、マルセル。今わかりましたよ。あなたはこう言いたかったんですね。

「ピッタリでしょ? 大好きな女の子への初めてのプレゼントに」

私はつぶれかけてしまった花束を軽く整えると、アンジェリークにそっと差し出しました。

「アンジェリーク。あの、こ、この花束。もしよかったら受け取ってもらえませんか?」

「え?」

マルセルに教わったブルースターの花言葉。それは“信じあう心”

あなたに私の心を届けたい、そしてあなたの心が伝わってきますように。そんな思いのつまった淡青色のブルースターの花束。

私の真実をありったけ込めて、あなたに渡したいんです。

「でも、これはマルセル様からルヴァ様にって……」

彼女の言葉に、私は何と言って説明したら良いのか一瞬迷ってしまいました。

マルセルが、私からあなたに渡すようにとこの花束を用意してくれたなんて。年長者の私がこんなふうに気を使ってもらったなんて、何となく気が引けて言いづらかったんですよ。

その時、優しい音色が響いてきました。励ますような、暖かい優しいハープの調べ。

「リュミエール……」

どこかでそっと弾いていてくれているのでしょう。おそらくこれが、彼から私へのバースディプレゼント。

その調べと一緒に、柔らかな風が私とアンジェリークの周りを吹き抜けて行きました。
その風に、彼からのメッセージを乗せて。

『俺からルヴァ様に風の勇気を贈ります。目には見えなくてもルヴァ様なら感じ取ってくれますよね?』

「……ありがとう、ランディ。しっかりと受け取りましたよ、あなたの贈り物」

私は上空に吹き上げる風を見送ってから、アンジェリークを改めて見つめました。

そして再び花束を彼女に差し出したんです。

「あなたに渡したいんですよ、アンジェリーク。私の思いもすべて……受け取ってくださいませんか?」

一世一代、最初で最後の告白かもしれません。でも、仲間達の思いを受け止め、私の思いをあなたに届けたい。不器用だけれど、みんなのおかげだけれど、これが私の真実の思いなんです。

「……ありがとうございます、ルヴァ様。……喜んで」

下を向いて差し出した花束が、スッと彼女の手に渡りました。驚いて顔を上げる私の目の前にアンジェリークの笑顔がありました。
花束に埋もれた彼女の瞳が、少し潤んで見えたのは、私の視界がぼやけ始めたせいだったのでしょうかねぇ。

お互いに顔を見合わせてついつい漏れてしまう笑顔。その時アンジェリークはあっ、と口元に手を当てました。

「どうしたんですか?」

「どうしよう。……私、用意していなかったんです。ルヴァ様へのプレゼント」

「ああ、そのことですか」

私はアンジェリークの肩にそっと手を触れると、彼女に不器用なウインクを贈りました。(オリヴィエとオスカー、今度こっそり教えて下さいね)

「いいんですよ。あなたがその花束を受け取ってくれた事が何よりのプレゼントですから。それにね、このお花。白いガーデニィア、この花言葉ご存知ですか?」

アンジェリークは首を振りました。……そうですよね、私もついさっき知ったんです。

「それはね“私は幸せです”って意味なんですよ」

 

アンジェリーク。あなたという女性にめぐり逢えてよかった。

生まれてきてよかった、そう思えることが何よりのプレゼントです。

ほら、あなたの腕の中で小さなブルースターの花が、ハート型の葉を揺らしながら微笑んでくれていますよ。……私達の未来に、ね。

おわり