人魚姫

(1)

「『……そして、人魚のお姫様は、泡となって、海へ還りました』……おしまい」

「悲しいお話……」

「うん、そうだね」

「ねぇ、マルセル様。どうして人魚姫は、王子様に言わなかったのかなぁ。私ですって。私があなたを助けたんですって。口で言えなくったって、紙に書くとか。王子様の事、大好きです。って伝えれば、泡にならなくてよかったのに」

「前に誰かから聞いた事があるんだ。伝えられない想いもある、って」

「伝えられない想い?」

「相手の事を想っているからこそ、黙って、隠し通して見守るんだって。そういう形の愛情もあるんだって」

「……メル、よくわかんない。だって好きな人には大好き、って言わなきゃ伝わらないもの」

「僕も難しくてよくわからないんだ、本当は……」

「メル、いますか? ……ああ、これはマルセル様。おじゃましてしまいましたか」

「いいえ、もう帰るところでしたから。それじゃまたね、メル。さようならエルンストさん」

「お気をつけて」

「ご本、ありがとうあ、マルセル様!」

「なに?」

「うふっ、メル、マルセル様、だぁい好きだよ!」

「……ありがとう、メル。僕も君が好きだよ」

「メル、何かあったんですか?」

「ううん、なぁんにも。エルンストさんもだぁい好き」

「……そ、それはどうも」

 

メルはね、占い師なの。今、この聖地では、女王試験の真っ最中。

メルはそのお手伝いをしているの。最初サラおねえちゃんが来るはずだったんだけど、種族同志の問題が残っていたり、忙しくてダメだったから。(ほんとはパスハさんと離れたくなかったみたい)

女王候補さんと聖獣の親密度や、守護聖様たちとの相性や親密度とか、毎日占ってデータを届けるの。責任重大で大変だけど、とっても楽しい毎日。みんなすごくいい人だから。

そして……女王候補アンジェリークが来てくれるから。

 

「はい、たしかに」

「ごめんなさいエルンストさん。メル、ついおしゃべりに夢中になって、遅くなっちゃって」

「今日中に、私の手元にデータがそろえばいいのですから、気にしないで下さい」

この、メガネの奥の眼が光ってる人は、王立研究院のエルンストさん。ちょっと恐そうだけど、ほんとはとっても優しいの。ほら、メガネに手をやって、しきりに持ち上げてる。照れてる時の、エルンストさんのくせ。気付いてないのかなぁ。

「では、私はこれで……っと、あぶないっ!」

「あ、ごめんなさい……エルンストさん……!?」

慌てていたのかな、誰かが思いっきりぶつかっちゃった。……あ!!

「アンジェリーク! 来てくれたの? うれしいな!」

「す、すみません。大丈夫ですか?」

アンジェはおろおろしてる。エルンストさんたら、尻餅ついちゃうんだもん。

「い、いえ、私の方こそ……。で、では、メル。失礼します」

あ、エルンストさん、振り返りもせずにいっちゃった。しきりにメガネをいじりながら……。

「今日はどんなご用なの、アンジェリーク」

「ええ、実はゼフェル様とランディ様の相性をあげてもらおうと思って」

ちょっと落ち着いたみたい。メルをまっすぐ見つめながらしゃべってる。……なんだか、メルの方が照れちゃうよ。

「あれ? そのお願いってたしか3日前にも聞いたよね?」

「ええ、そうなんですけどあまり効果が見られないというか……あ、メルさんが悪いんじゃなくて、もっとお二人に仲良くしてもらいたくて!」

アンジェリークはほっぺたを赤くして、一生懸命話してる。育成が、とかバランスよく力を贈るには、守護聖様同志仲良くしないと、とか。……ふふっ、すっごく可愛い!

「わかったよ。ランディ様とゼフェル様。二人がもっともーっと仲良くなるよう、もう一度おまじないをするね」

「お願いします、メルさん」

「うん、メルにまかせて!」

 

あなたの役にたちたい。あなたの笑顔が見たいの。あなたが来てくれるとドキドキする。会えないと胸がキュンと苦しくなる。

メルは知りたいの。あなたの心。あなたの気持ち。

 

『――メル、あなたは優秀な占い師だわ。だからこそ、私と約束して。相手の許可なしに相手の心を読んでは駄目……絶対にね』

 

「サラおねえちゃん……ごめんなさい。でもメル、どうしても知りたいの……」

水晶球が、輝き出す。いつもより激しく、ずっと鮮やかに――。

「水晶よ。メルに答えて。女王候補アンジェリークのこころを……映して!」

 

部屋一杯に光が溢れ、やがて光の洪水が、水晶球に飲み込まれていった。