「『……そして、人魚のお姫様は、泡となって、海へ還りました』……おしまい」
「悲しいお話……」
「うん、そうだね」
「ねぇ、マルセル様。どうして人魚姫は、王子様に言わなかったのかなぁ。私ですって。私があなたを助けたんですって。口で言えなくったって、紙に書くとか。王子様の事、大好きです。って伝えれば、泡にならなくてよかったのに」
「前に誰かから聞いた事があるんだ。伝えられない想いもある、って」
「伝えられない想い?」
「相手の事を想っているからこそ、黙って、隠し通して見守るんだって。そういう形の愛情もあるんだって」
「……メル、よくわかんない。だって好きな人には大好き、って言わなきゃ伝わらないもの」
「僕も難しくてよくわからないんだ、本当は……」
「メル、いますか? ……ああ、これはマルセル様。おじゃましてしまいましたか」
「いいえ、もう帰るところでしたから。それじゃまたね、メル。さようならエルンストさん」
「お気をつけて」
「ご本、ありがとうあ、マルセル様!」
「なに?」
「うふっ、メル、マルセル様、だぁい好きだよ!」
「……ありがとう、メル。僕も君が好きだよ」
「メル、何かあったんですか?」
「ううん、なぁんにも。エルンストさんもだぁい好き」
「……そ、それはどうも」
メルはね、占い師なの。今、この聖地では、女王試験の真っ最中。
メルはそのお手伝いをしているの。最初サラおねえちゃんが来るはずだったんだけど、種族同志の問題が残っていたり、忙しくてダメだったから。(ほんとはパスハさんと離れたくなかったみたい)
女王候補さんと聖獣の親密度や、守護聖様たちとの相性や親密度とか、毎日占ってデータを届けるの。責任重大で大変だけど、とっても楽しい毎日。みんなすごくいい人だから。
そして……女王候補アンジェリークが来てくれるから。
「はい、たしかに」
「ごめんなさいエルンストさん。メル、ついおしゃべりに夢中になって、遅くなっちゃって」
「今日中に、私の手元にデータがそろえばいいのですから、気にしないで下さい」
この、メガネの奥の眼が光ってる人は、王立研究院のエルンストさん。ちょっと恐そうだけど、ほんとはとっても優しいの。ほら、メガネに手をやって、しきりに持ち上げてる。照れてる時の、エルンストさんのくせ。気付いてないのかなぁ。
「では、私はこれで……っと、あぶないっ!」
「あ、ごめんなさい……エルンストさん……!?」
慌てていたのかな、誰かが思いっきりぶつかっちゃった。……あ!!
「アンジェリーク! 来てくれたの? うれしいな!」
「す、すみません。大丈夫ですか?」
アンジェはおろおろしてる。エルンストさんたら、尻餅ついちゃうんだもん。
「い、いえ、私の方こそ……。で、では、メル。失礼します」
あ、エルンストさん、振り返りもせずにいっちゃった。しきりにメガネをいじりながら……。
「今日はどんなご用なの、アンジェリーク」
「ええ、実はゼフェル様とランディ様の相性をあげてもらおうと思って」
ちょっと落ち着いたみたい。メルをまっすぐ見つめながらしゃべってる。……なんだか、メルの方が照れちゃうよ。
「あれ? そのお願いってたしか3日前にも聞いたよね?」
「ええ、そうなんですけどあまり効果が見られないというか……あ、メルさんが悪いんじゃなくて、もっとお二人に仲良くしてもらいたくて!」
アンジェリークはほっぺたを赤くして、一生懸命話してる。育成が、とかバランスよく力を贈るには、守護聖様同志仲良くしないと、とか。……ふふっ、すっごく可愛い!
「わかったよ。ランディ様とゼフェル様。二人がもっともーっと仲良くなるよう、もう一度おまじないをするね」
「お願いします、メルさん」
「うん、メルにまかせて!」
あなたの役にたちたい。あなたの笑顔が見たいの。あなたが来てくれるとドキドキする。会えないと胸がキュンと苦しくなる。
メルは知りたいの。あなたの心。あなたの気持ち。
『――メル、あなたは優秀な占い師だわ。だからこそ、私と約束して。相手の許可なしに相手の心を読んでは駄目……絶対にね』
「サラおねえちゃん……ごめんなさい。でもメル、どうしても知りたいの……」
水晶球が、輝き出す。いつもより激しく、ずっと鮮やかに――。
「水晶よ。メルに答えて。女王候補アンジェリークのこころを……映して!」
部屋一杯に光が溢れ、やがて光の洪水が、水晶球に飲み込まれていった。