Bosom Caresser   -秘めやかな抱擁-

(1)

「ルヴァ様、この本はこちらでよろしいですか?」

「ええと、ちょっと待ってくださいねぇ」

そう叫ぶと、ルヴァは積み上げている本の山を慎重に通り抜け、ロザリアの目の前に辿り着くと彼女が持っている本と白い指が差し示している棚をゆっくりと見比べ、にっこりと微笑んだ。

「そうですね、その棚の右側の方に入れておいてもらえますか?」

「はい」

ロザリアは軽くうなずくと、すっと前に進み出て本を棚に差し込んだ。そして顔だけ振り返ると、また本の山に埋もれに行こうとする部屋の主に声を掛けた。

「先ほど拝見したところだと、この棚に理論考古学の本は全部収まらないですわ。あちらの三段を使ったほうがしっかり収まりますし、分類もしやすいと思うのですけれど」

ルヴァは立ち止まると、ロザリアと彼女の指差す方向を再び見比べ、ややあってゆっくりとうなずいた。

「確かにあなたの言う通りですね――それでは、あちらの上の段から並べていくことにしましょうか」

「では、こちらはわたくしが引受けますから、ルヴァ様は奥の作業をお続けになって下さい」

「そうですか? ではお願いしますねぇ――ああ、それから」

ルヴァは軽くうなずいたかと思うと、急にほわっと微笑んだ。

「ロザリア、私のことはルヴァと呼んでくださって結構ですよ。あなたは、もう女王候補ではありませんからねぇ」

穏やかな笑みを浮かべたルヴァがそう告げた途端、ロザリアはぽうっと頬を赤らめる。

「ご、ごめんなさい、ルヴァさ…ルヴァ」

「ああ、謝らなくてもいいんですよー。悪い事をしたわけではないんですから」

「――わたくし、まだ慣れなくて」

「そんな急には変われませんよ。少しずつ慣れていけばいいんです、ね?」

ルヴァがにこにこと笑いながら答えると、ロザリアは安心したように小さくため息をついた。そしていつものようにしっかりと顔を上げ、きゅっと唇の端を上げて微笑んだ。

「はい。ありがとうございます、ルヴァ様。――あっ」

安心した途端、やはり女王候補の時と同じ口調に戻ってしまった少女を見つめ、ルヴァは小さく笑ってからぽんと手を叩いた。

「ロザリア、少し休憩しませんか? ずっと手伝ってくれて疲れたでしょう。そうそう、甘い物もあるので、ちょっと待っていてくださいねー」

そう言って、そそくさと書棚の奥へと歩いていくルヴァの背中をしばらく見つめ、やがてロザリアはくすりと小さく笑った。

もう少ししたら私室の奥から、ルヴァがのんびりとした声音で、甘いお菓子が用意できたことを知らせてくれるだろう。

今日は一体、どんな珍しい物が食べれるのだろうと期待しながらロザリアは、手にしていた本を書棚に差し込みながら、ふと自分の右手の指先に目を向けた。

その途端『どくんっ』と、胸の奥が大きな音を立てた。

ロザリアは、ゆっくりと伸ばした手を胸元に引き寄せ、左手でそっと庇うように包み込むと、うつむいて頬を赤らめた。傷があるわけでも火傷をしたわけでもないのに、指先が痺れるように熱くてたまらない。

そしてその熱さは、昨夜指に触れた彼の唇の優しさと、絡みついてくる舌の丹念な動きを思い出させ、ロザリアは思わず甘い吐息を漏らした。

 

トン、トントン

扉をノックする軽快な音に、ロザリアは驚いてびくりと身体を震わせた。そして無意識のうちに、手を隠すように背後に回して顔を上げると、ちょうど扉が開いた。

「ルヴァ、いるか? ジュリアス様から書類を預かって……ロザリア?」

どうしてこんなところに?とでも問いたげに片方の眉を上げるオスカーに向って、ロザリアはぎこちない笑みを浮かべてみせた。

「ご、ごきげんようオスカー様。……あ、あの、わたくし、ルヴァ様のお手伝いを……」

「……ほぉ」

オスカーは小さく呟くと、ゆっくりと部屋の中へ入ってきた。そしてロザリアとその周辺を観察するようにしばらく眺めると、ふと表情を和らげて微笑んだ。

「ま、いいさ。ところで、この部屋の主はご在室なのか? 届け物に来たんだが」

「あ、え、ええ。いま、奥でお茶の用意をして下さってるの。ちょっと、お呼びしてくる……わっ!」

取り繕うように早口でつげると、ロザリアは手を隠したままそそくさとオスカーの脇を通り抜けて、ルヴァのいる奥の私室へ向おうとした。が、とつぜん目の前に伸ばされた腕に身体を捕らえられ、小さな悲鳴を上げた。

「オ、オスカー様、あのっ!」

だがオスカーは無言のまま、ロザリアが後ろに回していた腕を掴んで自分の目の前に持ち上げると、何度も裏表に返しながら目を細めた。

「どこだ? 指か? 手の平か?」

「え? な、なんのことですか?」

「知ってるぜ、本で切ったんだろう? まったく、どうして君はそうやって、なんでも隠したがるんだ」

「い、いえ……そうじゃなくて、あの……」

ロザリアが赤くなって小声で呟いたが、オスカーは彼女の右手にあるだろう傷を見つけようと、真剣な表情を浮かべていた。

そうやって彼にじっと手を見つめられていると、また昨夜のことがロザリアの脳裏に鮮明に浮かび上がり、彼女は恥ずかしさといたたまれなさで、泣きそうになった。

しばらくしてオスカーは怪訝そうに首を傾げると、小さく息を吐いた。

「どこも切れていないみたいだが……ロザリア?」

言うとオスカーは、うつむいているロザリアの顎に指を添えて心持ち仰向かせると、潤んだ瞳を逸らす彼女の顔を覗き込んだ。

「どうした? 他に痛いところがあるなら教えてくれ。君の涙は美しいが、辛そうな顔は見たくないんだ」

そう言ってオスカーは上体を屈めると、ロザリアの頬に軽く触れるようなキスをした。それは彼女を安心させるためのもので、決して淫らな気持ちでしたものではなかったのだが、ロザリアは「あ……んっ!」と鼻から抜けるような嬌声を漏らすと、顔をのけ反らせて、オスカーの腕をぎゅっと握り返してきた。

だがすぐに我に返ったのか、ぐっと顔を上げてオスカーを見ると「あっ、ち、違うのっ! あ、あのっ、そうじゃなくてっ!」と顔を真っ赤に染め、慌てて彼から身体を離した。

一瞬、呆気にとられ動きを止めたオスカーだったが、そこはロザリアと比べたら、いろいろな意味で『年期』が違う。すぐに彼女が『隠そうとしたモノ』を理解した彼は、離れようとしたロザリアの腕を再び捕らえてぐいっと抱き寄せると、細い右の手首を掴んで持ち上げた。

「そうか。君が隠そうとしていたのは……これか?」

呟いて小さく笑うとオスカーは、ロザリアの微かに震える指先に視線を向け、すぐにまた彼女の瞳を覗き込むようにしながら、彼女の小指をゆっくりと口に含んだ。

「あ……っ!」

ロザリアが思わず声を漏らすとオスカーはほくそ笑み、小指を口から離すと、今度は手の甲から中指の先までを、舌で丹念に舐め上げた。

「や、あっ!」

思わず漏れた彼女の高い声に、オスカーはふっと笑うと、ロザリアの手を掴んだまま、彼女の耳元で囁いた。

「大きな声を出すとルヴァに知られちまうぜ……君が、どれだけ感じやすいかってことを、な……」

「そ……な、こと……っ」

潤んだ目で見返してくるロザリアの表情に、オスカーは思わず息を飲んだ。

いわゆる『恋人』となったのは、女王試験が終わったつい最近だが、それまでも自分はロザリアしか見ていない。だから、彼女のことは全て知っているつもりだった。 

なのに、こんな表情を浮かべるなど知らなかった。

まだまだ少女でしかない、だから少しずつ自分が『女』にしていってやろう。そう思っていたのに、これでは計画が狂ってしまう。

だがオスカーは一瞬の後、ふっと表情を改めると、ロザリアの唇に貪りつくように口づけた。

――それならそれでいい。一気に、華を咲かせてやるっていうのも、それはそれで楽しめそうだ。

口付けながらオスカーは、ロザリアの腕を左手でまとめて書棚の柱に縫い止めるように押さえつけると、彼女の長いドレスを素早くたくし上げ、顕になった白い太股を右手で撫で上げた。

「ふ……う、んっ」

するとロザリアは、小さく呻いて身を捩らせた。

それを合図に、オスカーは一瞬身体から力の抜けた彼女の足の付け根に右手を忍び込ませると、下着の上からでもわかるほどしっとりと濡れた部分を、指でゆっくりとなぞった。

オスカーの動きに、ロザリアの身体がビクビクと反応するのを確かめると、ようやく彼は彼女の唇を解放した。

そして彼女に安堵する暇を与えぬように、するりと下着の中に手を滑り込ませると、繁みの中で固くなった小さな突起を丹念に撫でた。

「あ、あっ! や、やめ…っ!」

ロザリアは思わず叫びそうになり、慌てて下唇を噛んだ。そしてオスカーを睨むと、彼の指の動きに流されてしまいそうな自分を必死で堪えながら口を開いた。

「オ、スカー、さまぁ…っ。や、やめ……て。こ、こんな……んっ……とこ、ろ、じゃ…」

「……ルヴァに聞えるからか?」

オスカーがささやくように問いかけると、ロザリアは息を荒げながら微かにうなずいた。そしてまた小さく嬌声を上げると、眉をきゅうとひそめた。

そんなロザリアの表情は、またオスカーが見たことがなかったもので。だからオスカーは、彼女の抗議は聞えなかったふりをすることにした。

「……聞きたければ、聞かせてやるといい。君がどれだけ、俺に愛されてるかってことを…な」

うそぶくとオスカーは、ロザリアの十分潤った蜜壺に人差し指と中指を同時に滑り込ませ、仰け反る彼女の身体をぎゅっと抱きしめながら、激しく指を動かし始めた。

「あ……あっ……んっ……んっっ…」

オスカーは己の腕の中で、唇を噛みしめ声を殺しながらも快楽に溺れるロザリアを見ながら、思わず舌なめずりをしてしまった。こんな形でこんな場所で、しかもこんな昼間から彼女の乱れる姿を見るのは初めてだったからだ。

「……クセになりそうで、怖いな」

小さく呟いて笑うとオスカーは、彼女の感じやすい部分を、指でかき回すように攻め立てた。

するとロザリアが歓喜の声を漏らして首を仰け反らせ、その白い喉元が露わになったものだから、オスカーの背中を熱い疼きが駆け抜けた。

本当はすぐにでも一つになりたいところだったが、口ではかまわないと言いながら、さすがにルヴァに見つかってはまずい。だから、ここはとりあえず彼女だけ満足させて、そのまま自分の部屋に連れ帰ればいい。

次第に高みへと追いつめられていくロザリアの表情を見おろしながらオスカーはふと微笑み、やがてロザリアの口からほとばしるように漏れた嬌声を唇で飲み込むと、彼女が放った温かい雫を手の平で受け止めた。

 

ルヴァはオスカーの腕に抱かれたロザリアの上気した顔を、心配そうに見つめた。

「あー、確かに熱がありそうですねぇ。どうしたんでしょう、さっきまではあんなに元気だったのに」

「慣れない生活がしばらく続いたからな。アンタの側にいて、ほっと気が緩んだんだろう」

オスカーはしれっと言い放つときびすを返し、軽く振り向いて微かに微笑んだ。

「それじゃあ、うちのお姫さまは返してもらうぜ。なに、一晩眠ればすぐに元気になるさ」

「そうだといいんですが」

ルヴァはオスカーの後ろから扉のところまでついていくと、目を閉じているロザリアに、そっとささやいた。

「お大事にしてください、ロザリア。オスカーがついているから、大丈夫だとは思いますけれどね」

「あんたに言われるまでもないさ。じゃあな、確かに書類は渡したぜ」

「あー、はいはい。これは私の方からジュリアスに返しておきますよ」

「ああ、頼む」

言うとオスカーは、ロザリアを両腕に抱えたままで歩き出した。