「そんなに二人きりになりたいのか?」
オスカーの楽しそうな声音に、ロザリアはようやく我に返って足を止めた。そしてオスカーを恨めしげに見上げると、ぼそりと声を漏らした。
「……ランディに、なにを言おうとなさったの?」
するとオスカーはくすりと笑い、身体を屈めるとロザリアの耳に唇を寄せた。
「それはもちろん、君に誠心誠意、真心のこもった手当をしてもらったって、な」
言いながらロザリアの手を取ったオスカーは、自分の胸元に浮かぶ紅い傷跡に彼女の手を添えさせてぎゅっと押さえつけた。
「そしてこの傷は、君が俺という炎に焼かれた証。君の白い肌の代わりに俺が引き受けた……火傷の名残さ」
告げてオスカーは、ロザリアの唇に触れようと顔を向けた途端、布のようなものを顔に押しつけられて「むぐっ!」と小さく呻いた。
その隙にロザリアは数歩後に下がると、顔を真っ赤に染めたままオスカーを睨んで叫んだ。
「そ、そんなに何度も流されると思ったら大間違いよっ! あなたって本当に最低っ!」
「お、おい……」
呟いて顔を覆っていた布を手にもったオスカーは、それが自分の紅茶で汚れたシャツであることに気がついて顔を上げた。
「ロザリア……これ」
伺うように差し出したが、ロザリアは赤い顔をぷいっと横に向けたかとおもうと、オスカーに背を向けてしまった。
「洗って差し上げようと思ったのだけれどやめました! ご自分で処理なさって!」
「自業自得なんですから!」と続けて叫んだロザリアは、そのまま肩を怒らせて歩き出した。
ここで下手に止めようものならば、今度は平手打ちが飛んでくる可能性が高い、と、これまでの経験から判断したオスカーは、だんだんと小さくなっていくロザリアの背中を黙って見送った。
そして彼女の姿が回廊の向こうへ消えたのを確認すると、ちらりと手元の汚れたシャツに視線を落とし小さく笑った。そのままきびすを返しオスカーは、今度こそ自分の執務室へ向かうために歩き始めた。
「さて……明日はどんな理由を作ろうか。火傷が疼くからなんとかしてくれ、とでも抗議しに行くとするか」
そうつぶやいたオスカーはなおも薄く笑ったまま、丸めていたシャツを肩に引っかけて大股で回廊を進んでいった。