『わたくしが本当に逢いたい人……ジュリアス様』
そう自分に問いかけてみるが、なぜか心がすっきりしない。まるで他人の心を代弁しているような気がしてならない。
「考えていても仕方がないわ……やってみれば分かることですもの」
ロザリアは目をつぶり心を空っぽにして、滝に向かってアンジェリークに教わった祈りを捧げてみた。
『わたくしの想いを……どうか愛しいあの方に届けて』
ロザリアは目を開けて、天を仰いだ。すると足音がこちらに近づいて来るのが聞こえた。心臓が高鳴るのを押さえて、ロザリアはゆっくりと振り返った。
そこには驚くアイスブルーの瞳があった。その人の燃えるような赤い髪が風になびいている。
「……ロザリア」
立ち止まったオスカーの姿に、ロザリアは身体中の血が沸騰したような気がして思わず座り込んでしまった。
『どうして、彼女がここにいるんだ?』
オスカーは崩れ落ちるロザリアの姿に、反射的に駆け寄って彼女を支えようとした。しかし数歩進んだところで立ち止まり、拳を握りしめた。
あの日からロザリアとは逢っていなかった。彼女が避けているのか、自分が逃げているのかそれも分からない。
女王がアンジェリークに決まったと聞いた時、正直ほっとした。プライドの高いロザリアのことだ、女王になれないのならば聖地に行くことを拒むだろうと思ったからだ。
そうなればもう彼女に逢わなくてすむ、心をかき乱されなくてすむ。
だが彼女は補佐官となる道を選んだ。ジュリアス様への想いがそうさせたのだと思った。
ならばこれからは守護聖として、補佐官としての彼女を守り、共に女王を支えていこうと決意したばかりだった。
『……この想いはいつか消える。痛みと傷をわずかに残して』
でも、また逢ってしまった。最後の最後にこんな処で――。
「どうした? 明日は聖地に戻るというのに、こんな処で油を売っていてもいいのか?」
自分はどうなんだ、と思いながらつい憎まれ口を利いてしまう。最後まで素直になれない。
するとロザリアは肩を震わせて顔をあげると、オスカーに向かって迸るように叫んだ。
「どうしてあなたなの!? 逢いたくない時に、逢っちゃいけない時にあなたはいつだってわたくしの前に現れる。だから忘れられなくなってしまうんじゃない、逢いたいって思ってしまうんじゃないの!」
息を呑むオスカーの前でロザリアは立ち上がると、大きな青い瞳から涙を溢れさせた。
「わたくしが好きなのはジュリアス様だったのに、いつの間にかオスカー様が心のなかでどんどん大きくなって……側にいたい、離れたくないって思うようになってしまったわたくしの心を……どうしたらいいのよっ」
思いの丈をぶちまけたロザリアはしばらくオスカーを睨みつけていたが、やがて視線を逸らして走り出した。
「待ってくれ!」
オスカーは慌てて彼女に駆け寄りその腕を掴むと、後ろから思いきり抱きしめた。
「行かないでくれ……頼む」
オスカーが微かに震えているのが分かって、ロザリアは驚いて彼の腕にそっと触れてみる。少し落ち着いたのか、ロザリアの髪に顔を埋めたままオスカーはゆっくり口を開いた。
「……アンジェリークが女王に決まったと聞いた時、俺がどう思ったかわかるか?」
「喜んだのでしょう? わたくしみたいな生意気な小娘に仕えなくてよくなって」
「嬉しかったのは確かだ。でもそれは……君を獲られなかったから。新宇宙に君を獲られなくてすんで……本当に嬉しかった」
オスカーは微かに息を飲むと囁くようにつぶやいた。
「新宇宙にアンジェリークが必要なように、俺には君が必要なんだ。ロザリア……側にいて欲しい。……愛してるんだ、君を」
「……オスカー、さま」
ロザリアは涙が出てくるのが分かった。心の中がじんわりと暖かくなってとても気持ちがいいのに、どうして涙が出るんだろう。
『……自分に正直に。そうね、アンジェリーク……今そうしなければ、わたくしは一生後悔するわ』
ロザリアは溢れる涙を押さえて微笑みながら、自分を抱きしめるオスカーの手に自分の手を重ねた。
「あなたが好きです、オスカー様。多分、ずっと……好きだったんです」
オスカーはロザリアから唇をそっと離すと、照れ臭そうに微笑んだ。
「…まるで初めてキスした子供みたいな気分になるな。君に見つめられると」
ロザリアは微笑み返す。
「わたくしは初めてですわ。オスカー様が最初の方です」
「そして最後になるんだ。そうだろう?」
「ええ」
オスカーはもう一度微笑むと、ロザリアを抱き寄せそっと唇を重ねた。
大嫌いだったあの笑顔。
不思議ね、今は何よりも大切なわたくしの……宝物。