magique petit chat

(1)-日の曜日-

「わたくしはもう、わたくし一人の身体じゃないの」

ロザリアは真面目な表情でそう言うと、目を見開いて硬直しているアンジェリークの前で紅茶を一口啜った。

「ロ、ロザリア」

「なに?」

アンジェリークはごくりと唾を飲み込み、恐る恐るロザリアの目を覗き込む。

「そ、それって……い、いつ? いつ気がついたの?」

「いつって。ここに来てすぐに決まってるじゃない」

「早っ!!」

アンジェリークが思わず叫んで立ち上がると、ロザリアは明らかに不愉快そうに眉をひそめて親友を見上げた。

「はしたないわね、いきなり立ち上がるなんて。それに早いってなにがよ? そんなこと当然でしょう」

「と、当然って……」

ロザリアのことを世間知らずのお嬢さんだと思っていた。だから女王試験に関してはともかく、自分の方が経験も知識も豊富だと思っていたアンジェリークは、軽いショックを受けた。

放心したようにふらっと椅子に座り込むアンジェリークの様子に、ロザリアは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「まぁ、あんたには無理でしょうけれどね。子供の頃から女王にふさわしい者としての教育を受けてきたわたくしだからこそ、すぐに気がついたのだし」

――いったいどんな教育を受けてきたのだろう。

「じ、じゃあロザリア……育てるつもりなんだ」

「当たり前でしょう。わたくしは彼らに対して責任があるのですもの」

「か、彼らっ!?」

すでに〔双子以上〕だと判明しているらしい。

「何をいちいち驚いているのよ。騒がしい子ね」

「ご、ごめん。ただ、ロザリアは偉いなぁって。なんていうかその歳で、もうそんな事考えてるなんて。…すっかりお母さんなんだね」

「お母さん? ふっ、そうね。わたくしは彼らの生みの親も同然。アンジェリーク、あんたもたまには良いことを言うわね」

「そ、そう? ありがと」

アンジェリークは軽い眩暈を感じたが、すぐに気を取り直すと、テーブル越しにずいっとロザリアの方へ身体を寄せた。

「で。…相手は、その……当然、オスカー様よね?」

「相手?」

アンジェリークの言葉に、ロザリアはきょとんとした表情を浮かべる。

「相手って…なによ?」

率直に返されて、アンジェリークは更に慌てた。が、ロザリアがじっと見つめているものだから、とうとう観念したのか、微かに顔をそむけ、上目遣いにロザリアを見ながらごにょごにょと呟いた。

「だ、だからその………しちゃったんでしょ?」

「なにを?」

「だから……オスカー様とその……あ、赤ちゃんができちゃうコト……」

「誰が?」

「ロザリア……が」

しばらくロザリアは無言でアンジェリークを見つめていた。たっぷり3分、お互いに固まっていただろうか。

アンジェリークの言葉の意味がロザリアの脳細胞にようやく届き、その意味を理解した途端、彼女は見えている肌の部分を全て真っ赤に染めて立ち上がった。

「ア、ア、ア、アンジェリーク・リモージュッッ!!! あ、あ、あんたって子は、な、なんっっってハレンチなことぅをっっ!!! オ、オ、オスカー様なんて、そ、そんなっ!」

「え、違うの!? オスカー様じゃないの!? じゃあ誰? 相手は誰なの!?」

「なに言ってんのよっっっ!!!」

「だってだってロザリア、もう一人の身体じゃないって。お母さんになるんだって。だからわたし、てっきり赤ちゃんができちゃったのかなって」

「ちっ、違うわよっっ!!」

もうロザリアの声は完全にひっくり返り、どこから出ているのだか自分でもわからなくなっている。

「わたくしはフェリシアの民を導かなければならないからっ、彼らに対しての責任があるからっ、だから、もう一人の身体ではないと言ったのっっっ!!」

「……あ、そういうこと…かぁ」

真っ赤になったままのロザリアとは対照的に、アンジェリークは真相を理解した途端に落ち着きを取り戻した。そして自分の早合点が可笑しかったのか、えへっと笑うと可愛い舌をぺろりと出して肩を竦めた。

「なぁんだ。もぉ、ロザリアったらいきなりスゴイ告白するからビックリしちゃった♪」

「わたくしの方が驚いたわよっ!!」

「そんなに怒らないでよ?。でもよかった、ロザリアが綺麗なままで♪」

「なんなのよ、それっっ!!」

「とにかく落ち着いて座ってよ、ね? ほら、みんな見てるし」

アンジェリークに諭され、ようやくロザリアの頭もほんの少しだけ冷えたらしい。ちらりと辺りを伺い、彼女の言う通り、カフェテラスに居る全員が「何事だろう?」という表情でこちらを見ていることに気がついた。

こほん、と小さく咳払いをして口元を押さえると、微かに椅子を引いて座り直し、テーブル越しにアンジェリークを睨みつけながら小声で囁いた。

「信じられないわ! あんたのせいでわたくしもうこのカフェテラスに来られないじゃないの! どうしてくれるのよっ!」

「えー、わたしのせいなのぉ!? でもぉ、だったらこれからお茶を飲むときは、オスカー様に守護聖様専用のカフェに連れて行ってもらえば良いよ。うん、問題解決!」

にこりとアンジェリークは笑顔を浮かべ、ストロベリーシェイクに刺さったストローを口に含んで、中身をずるっとおいしそうに一口飲んだ。

その無邪気というか能天気な態度と表情に、ロザリアの眉間に再び皺が寄る。彼女は拳をぐっと握りしめ、心持ち上体を倒してテーブル越しにアンジェリークに詰め寄った。