――どうして嫌だと言わなかったのかしら。
オスカーの温かい手が自分の白い肌に触れるたび、ロザリアはびくりと身体を震わせた。
「君が嫌がることはしない……」
今回のことを相談しに言った時も、さっきの乱暴な接吻の後でさえ、彼は言ってくれたのだ。だからきっと、ひと言「嫌だ」と言っていれば、彼は今夜だってそのまま黙って屋敷に送ってくれただろう。
「……は、あ……ん……っ」
彼の指が茂みを掻分け、ロザリアの蜜壺に挿し込まれた。その刺激に彼女は思わず呻き声を洩らす。
さっきまで彼の舌と指でもう何度も愛されたというのに、またこうして彼の長い指がゆっくりと動き始めると、ロザリアの白い肌がうっすらと桃色に染まり始め、彼女の口からは甘い吐息が零れだした。
――こんなところで、わたくしは何故……?
いくら真夜中を過ぎて誰も来ない湖のほとりとはいえ、こんな場所で抱かれるなど彼女からすれば狂気の沙汰だ。
なのに、拒否しなかったのは何故なのだろう……?
そう頭の片隅で思いながらも、何度も愛された身体はすぐに昇り詰め、ロザリアは小さく身体を震わせたかと思うとぐったりと力を抜いた。
ロザリアの白く盛り上がった双丘の先端の桜色の蕾に舌を絡ませていたオスカーは、不意に身体を起こして彼女の身体を見下ろす。
月明かりの下、地面に広げたオスカーのマントの上に横たわる彼女の裸体は、一瞬たりとも目を離すのが惜しいくらい、本当に美しかった。
――どうして嫌だと言わなかったのだろう。
思いながらオスカーは、ロザリアの白い膨らみをそっと手で押し包んだ。
すると彼女は小さく身体を震わせた。が、その唇からは抗議の声は漏れなかったので、オスカーはそのままゆっくりと、揉み込むように手を動かし始めた。
――こんなところで、俺はなにをしてるんだ?
思いながらも、オスカーはのめり込むようにロザリアを愛し続けた。
愛撫を与える度にロザリアの身体は小さく震え、その口から嬌声が漏れたが、拒絶の言葉は出ない。彼女がひと言でも「やめて」と言えば、おそらく彼はすぐ我に返っただろう。
何故なら、まさかこんなことになるとは、オスカー自身も考えてはいなかったのだから。
ずっと見守ってきた。ずっと守り続けようと思っていた。
そして何かあった時は、例えそれがなんであろうとも、彼女の味方になろうと思っていた。
行きずりで抱く女とは違う。誰よりも、何よりも大事でかけがいのない、ただ一人の女なのだ。
確かに、先程ロザリアがアンジェリークの話をした時に、苦々しく思ったのは事実だ。
アンジェリークを大切に思うあまりに親友の手を放し、その事で深く傷ついていた彼女をせめて支えてやりたいと思った。それと同時に、あそこまで協力を申し出たオスカーに対してなお遠慮をし、また弱みを見せまいとするロザリアの頑なさに苛立った。
守護聖である自分が、反逆行為とも思える事に手を貸したのだ。そんなことを慈善事業でやるわけがない。常日頃からの行動から考えても、オスカーがどういう気持ちをロザリアに抱いているのか、聡明な彼女が気がつかないわけがない。
そして彼女もまた、憎からず自分を思っていてくれているという自負がオスカーにはあった。
だから彼女がここにきても、まだ自分に対して頑なな態度をとり、アンジェリークのことだけしか考えていないような事を言ったので、彼は一瞬かっとなった。
そのためついあんな乱暴な振る舞いをしたのだが、唇を離して彼女を見下ろした時、彼女の瞳が揺らめいているのを見つけたオスカーは、思わず息を飲んだ。
冷たい拒絶のを向けられるかと思っていた。あるいはこの間のように、平手打ちが飛んでくるかもしれないと覚悟していた。
が、そこにあったのは、縋るようなロザリアの瞳だった。甘えている、というよりも、明らかに誘っているような。
彼女がそんなことを言葉にすることはないだろうことはわかっていた。たとえどれほど深い仲になっても、決して口にはしないだろう。そう、オスカーは思っていた。
だが、その時の彼女の瞳は明らかに訴えていた。「抱いて欲しい……」と。
「……いいのか?」
オスカーが呟くように告げると、ロザリアは微かにうつむいた。
ゆっくりと彼女を抱き寄せると、おとなしく腕の中にもたれ掛かってきた。
それでもなお、オスカーは念を押すように改めて問うた。
「嫌なら言ってくれ……。君が嫌がることはしたくない」
だがロザリアは何も言わなかった。ただ黙ってオスカーの胸に顔を埋め、彼の服をぎゅっと握りしめている。
もう、オスカーの思い込みや自惚れなどではないことは明らかだ。
その後は良く覚えていない。だが彼もまたロザリアと同じように、こんな風にこんな場所で、初めて彼女に触れるなど考えてもいなかった。
それでも、一度堰を切った情熱は、もう押さえることなど出来なかった。
オスカーはいま、ただ夢中でロザリアを愛し続けていた。
オスカーはロザリアの薄く開いた唇にそっと口付けると、彼女の足を開かせて蜜の溢れる花弁に自分自身を擦り付けるように押し当てた。
そしてロザリアがうっすらと目を開けるのを合図にしたかのように、一気に貫いた。
ロザリアが背中を大きくのけ反らせて叫ぶと、オスカーはその肢体を抱きしめ、耳元に唇を寄せる。
「ロザリア……今だけでいい。俺のことだけ……考えてくれないか」
「……あ」
ロザリアが小さく囁くと、オスカーは彼女を抱きしめる腕に力を込めた。
「陛下の事も、これからのことも。君が補佐官で、俺が守護聖だって事も……今は全部忘れて欲しいんだ」
「……オスカー」
ロザリアが切なげに眉をひそめた。その途端、オスカーは彼女の中にある猛りがぐっと締めつけられるのを感じた。
「今だけは心も身体も、君の全てを……俺だけで埋め尽くしてくれ。……ロザリア」
オスカーの擦れた声を、ロザリアは朦朧とした意識の中で聞いていた。
いつの間にか、もうここがどこだかとか、時間がいつだかなどは関係なくなっていた。
ここにオスカーがいて、自分がいる。それだけで、もう十分だった。
だからロザリアは、オスカーの切なげな声に軽く微笑みを返した。そして彼に向って腕を伸ばすと、その背に手を廻してしっかりと抱きしめた。
「……ええ、貴方の事だけを。今は貴方だけを……オスカー」
「……ロザリア」
オスカーの安堵したような声を聞いて、ロザリアは引き寄せた彼の首筋に軽くキスしながら微笑んだ。
「だから貴方も……今はわたくしのことだけを見ていて。わたくしのことだけを考えて……」
するとオスカーは少し身体を起こし、ロザリアの唇にゆっくりと唇を重ねた。そして顔を離すと、からかうような笑みを浮かべる。
「今さらなに言ってるんだ? 俺はもうずっと前から、君しか見ていないし、君のことしか考えていないぜ……」
オスカーの言葉に、ロザリアは呆れているような、それでいてどこか嬉しそうな表情をしてほんのりと頬を染めた。
そんな彼女に優しく微笑みかけると、オスカーはもう一度彼女にそっと接吻をし、そのままゆっくりと身体を動かし始めた。
何度も夢中で愛し合った後、二人は屋敷には戻らず、そのまま湖のほとりの樹に背中を預け、どちらからともなく手を握りあって、しばらく空の月を眺めていた。
特に何を話すわけでもなかったが、お互いの存在を搦めあった手と指から感じ取れるだけで、二人は満ち足りていた。
やがてロザリアが顔を背けて小さく欠伸を洩らした。するとオスカーは柔らく微笑み、彼女の身体をそっと抱き寄せて自分の肩に頭をもたれかけさせた。
「……少し眠るといい」
「貴方は休まないの?」
「俺はいいさ。せっかく君が隣にいるのに、眠っちまうなんてもったいなさすぎる」
「?」
「君の可愛い寝顔を拝める機会なんて、そう滅多にないからな」
オスカーの軽口に、ロザリアは途端にむっと眉をひそめた。
「じゃあ勿体ないから、そう簡単には見せて差し上げませんわ」
ロザリアがそう言ってつーんと顔を背けると、オスカーはくすくすと笑いだした。
「そう言うなよ。さっきはあんなに色っぽい顔を何度も見せてくれたじゃないか」
すると、見る間にロザリアの顔が火を吹いたように赤く染まった。そして彼女はすばやくオスカーに詰め寄ると、抗議しようと口を開いたが、それは彼の唇であっさり阻止されてしまった。
しばらくして満足したのか、オスカーはすっと身体を引くと、ぼうっとしているロザリアに薄く笑いかけ、彼女の身体を引き寄せてあっという間に自分の腕の中に閉じこめてしまった。
「いいからおとなしく寝ろよ、意地っ張りのお姫様。こうして抱いててやるから……」
「……どういう理屈ですの?」
この期に及んで、まだ拗ねたように洩らすロザリアの髪をそっと撫でながら、オスカーは苦笑した。
「明日からはゆっくり眠れる保証はないんだ。執務だけじゃない、秘密を持ってるってことは、人間の精神には結構負担になるもんなんだぜ? とくに君みたいな真面目人間は影響を受けやすい。睡眠不足でぶっ倒れることだって十分ありえるだろう?」
「……」
ロザリアはぐっと言葉に詰まった。確かに、夜が明けたら今までとはまるで違う生活が始まる。アンジェリークがいなくなることで、ロザリアはある決意をした。
その決意は、こうなった今でもオスカーには話さずに実行するつもりだ。いや、彼とこうなったからこそ、もう絶対に話すわけにはいかない、とロザリアは改めて心に誓っていた。
けれど、今は――もう少しだけ…貴方だけのロザリアでいたい。
心の中で呟くと、彼女はそっと目を閉じた。
夜が明けるまでの僅かな時間を――オスカーのぬくもりに包まれて。