「ここ……どこなの?」
クラヴィスは闇の中を独りで歩いていた。
「……やっぱりダメだったんだ」
そう呟くとクラヴィスは立ち止まって俯いた。
また……あの夢の世界だ。僕はまた独りぼっちになっちゃったんだ。せっかく……ジュリアスが来てくれたのに……。
そう考えた後、はっとなってクラヴィスは顔を上げた。
「そうだ! ジュリアスが言ってた。夢を見たら自分を呼べって。必ず助けに来てくれるって……」
それを思いだし、クラヴィスは辺りを見回しながら大声で叫んだ。
「ジュリアスっ!! ジュリアスっ!! どこにいるのっ!? 僕はここだよっ! 来てくれるって……助けを呼べば必ず来てくれるって約束したよね? ジュリアス、どこにいるの? 早く来てよ。僕は……僕はここにいるんだよっ!!」
とぼとぼと歩きながら何度もジュリアスの名を呼んだ。何度も、何度も……。
やがて叫び疲れたクラヴィスが顔を上げると、目の前にいつもの夢とは違う風景が現れた。それは光る球体で、目の前でふわふわと浮かんでいて、まるでクラヴィスを手招きしているかのようだった。
クラヴィスは球体の前で立ち止まると、恐る恐る手を伸ばして球体に触れてみた。それはとても柔らかくて暖かくて、クラヴィスはその優しさに魅了され更に球体に近づく。
そして球体に寄りそうと、頬を当ててうっとりと目を閉じた。
「……暖かいなぁ。……ジュリアス……なのかな? 助けに来てくれたのかな…? どっちでもいいや。だって……とっても気持ちがいいんだもの」
クラヴィスはその柔らかな光に包まれて、ふっと眠りに引き込まれていった。
「僕、思うんだ。もしかしたら……あれは天使だったのかもしれないって」
「天使などこの世にはいないし、第一おまえの夢に出てくるわけがなかろう」
クラヴィスの言葉を、ジュリアスはノートにもくもくとペンを走らせながらあっさりと否定する。クラヴィスは一瞬ムッとするが、すぐにくすっと軽く笑うと、本をぱらぱらと捲り始める。
しかしその微かな笑みが気に障ったらしく、今度はジュリアスがペンを止めてクラヴィスに向き直った。
「……何がおかしいのだ?」
「……別に。ただ、ね……ジュリアスのおかげだなぁって思っただけ」
「私の……?」
「うん。ジュリアスが約束してくれたから。必ず助けに来てくれるって言ってくれたから、僕は歩くことが出来たんだ。そうして……あの天使みたいな光に会えたんだ。だから……ジュリアスのおかげなのかもって思ったんだ」
そう言うと、ジュリアスに向き直ってクラヴィスはにこりと笑う。
「本当にありがとう、ジュリアス。君のおかげだよ」
そのあまりにも素直な微笑みに、ジュリアスは面食らって、慌ててそっぽを向いた。
「れ、例には及ばぬ。……何はともあれ、おまえが眠ることが出来るようになってよかった。寝不足では、守護聖の執務をこなすのに支障をきたすからな」
「うん」
ジュリアスは本当はとっても優しいんだよね。でも、ほんの少し素直になれないから、そっぽを向いて冷たいふりをして……。
僕、ね。ジュリアスと友達になれてよかったって心から思うよ………。
クラヴィスはふっと目を開けて天井を見上げた。窓から差し込む光が酷く眩しい。
誰が窓を開けたのだろう……眩しくて、眩しくて……目を開けていられない。そう思って手を翳し再び目を瞑ると、その翳した手に柔らかい光りがそっと触れた。
あの時の……光か?
そう呟いた時、光は優しく声をかけてきた。
「起きて下さい、クラヴィス様。……もうあんなに日が高いんですよ?」
その声にうっすらと目を開けてみると、暖かい光が大きな緑色の瞳をくりんと動かしこちらを見つめていた。
「またジュリアス様に怒られちゃいます。私まで怒られるんですからね、監督不行き届きだって」
「……あの者は……そんな事を言うのか?」
「そうです。だから早く起きて下さいっ!」
強引に自分を起こす光の天使に向かって、クラヴィスは軽く微笑みかけた。すると彼の天使は怪訝そうに首を傾げる。
「何がおかしいんですか?」
「今度、あの者に言ってやるといい。天使は……この聖地にいたとな」
天使の名をもつ少女は、クラヴィスの言った意味がわからずに不思議そうに首を傾げた。