恋の手料理大作戦!

(1)

朝が白々と明け始めた頃。レオナードは枕を抱きしめ、まだ夢の中だった。

昨日…正確に言うと今日だが、ベットに入ったのはついさっき。久しぶりに聖地を離れ、少しハメを外しすぎた。

今日は日の曜日だが、エンジュと約束をしてはいない。だから、一日寝ていても大丈夫。

そう思って朝方まで飲んでしまい、ようやく深い眠りに入ったところだった。

そんな訳で、扉を遠慮がちに補佐官が叩いた事にも気がつかなかったし、バタバタと誰かが廊下を駆けてくる足音も聞こえなかった。寝室の扉が勢いよく開けられた音にも気がつかなかったし、それを慌てて止める声も聞こえなかった。

だから驚いた。いきなり自分の上に何かがどすんと飛び乗ってきたかと思うと、耳元で誰かが叫んだ事に。

「おっはようございます、レオナード様っ!!」

「おわっ!!」

飛び起きたレオナードは枕を抱きしめ、思わずベットの端にずり寄った。が、すぐに眉をしかめると、はぁ~~っと長いため息を吐きだして髪を掻き上げた。

「……オマエなァ、朝っぱらから人の寝込みを襲うなんて、いったいどんな了見だァ?」

「も、申し訳ありません!」

主人の不機嫌そうな声に、守護聖補佐官が慌てて部屋の中に駆け込んでくると、レオナードを見下ろして深々と頭を下げる。

「私がお起こしすると申し上げたのですが、それでは埒があかないとおっしゃって……」

すると、それまで黙ってレオナードのベットの上にちょこんと座り、恐縮する守護聖補佐官とレオナードを楽しそうに見比べていたエンジュが口を開いた。

「だってレオナード様、自分で寝起きが悪いって、いつもおっしゃってるじゃないですか。だから、補佐官さんじゃ無理なんじゃないかなぁと思って」

「……んで、自分で起こしにきたってワケ?」

「はい、そうです!」

こくりと悪びれずに頷くと、エンジュはすばやくベッドから下り、ワンピースの裾を軽く叩いた。

「……エンジュ、ひとつ聞いていいか?」

「なんですか?」

「俺ぁ、今日、オマエと会う約束した覚えがねぇんだけど…」

レオナードが頭を掻きながらぼそりと呟くと、エンジュはにっこりと笑って答える。

「はい、約束はしてません。レオナード様、ぼけてませんから安心していいですよ」

「……ああ、そりゃありがたいこって」

エンジュに悪気はない。それに、朝から勢いよく怒るほど、レオナードのテンションは上がっていない。だから彼女の言葉をさらりと聞き流し、レオナードは欠伸をしながら頭を掻いた。

「んじゃ今日はどういったご用件で、俺様をわざわざ叩き起こしにきてくださったのよ?」

精一杯嫌みっぽく言ってみたが、エンジュはあっけらかんとしたものだ。

「レオナード様、もう朝ご飯はお済みですか?」

「…………あのなぁ。俺は今の今まで、気持ち良く眠ってたっつぅの」

「じゃあ、まだなんですね。よかった~」

「……ああ。オマエに邪魔されるまでは、すげーよかったね」

気を抜くとすぐに落ちてくる瞼を何とか持ち上げつつも、まだどこかぼーっとしているレオナードを見下ろして、エンジュは笑顔を浮かべながら自信あり気に自分の胸をとんと叩いた。

「そういう事ならレオナード様、今日の朝ご飯、私が作ってあげます!」

「ふぁああ……んぁ?」

盛大な欠伸をしていたレオナードだったが、エンジュの言葉を聞いた途端に間の抜けた声を発し、怪訝そうにまばたきを繰り返した。

「朝メシぃ? なんでいきなり……?」

だが、ぼそぼそと呟いたその声はエンジュには届かなかったらしい。

彼女はぐっと拳を握りしめると「じゃ、さっそくキッチンをお借りしますね!」と告げ、ぺこりと頭を下げたかと思うと素早く踵を返した。

そして扉の前に立っていた、成り行きを見守っていたレオナードつきの補佐官ににっこりと微笑みかけると、その隣をすり抜けて部屋を出ていってしまった。

「…………って、おいエンジュ!! 俺ぁ起きるなんてひとっコトも言ってねぇぞぉーーーっっっ!!」

叫んだが、それはエンジュに届くはずもなく。

レオナードは、しばらく開け放たれたままの寝室の扉を見つめ。

――やがて、がくりと枕に頭を埋めた。