超所有物待遇

(1)

少女が腕を微かに動かすと。その肘が机の上に置いているブレスレットに当たり、カツン!と音を立てた。と、ブレスレットが一瞬光り、次の瞬間には、机の上に耳をだらりと垂らしたうさぎのぬいぐるみが姿を現した。

「なんじゃ、せっかく気持ち良く眠っていたというのに」

驚いたことにぬいぐるみはそう呟くと、不機嫌そうに眉をひそめながら少女の手元を覗き込む。

「あ、ごめんね、タンタン」

少女は小さく謝ったが、ぬいぐるみが口をきいたり動いていることなど全然気にしていないようで、熱心に手元の小さなノートに何かを書き続けていた。

「……エンジュ。おぬし、何をしとるんじゃ?」

うさぎのぬいぐるみ=タンタンは少女の腕に身を乗り出し、ノートの字面をちらっと見てから少女の顔に視線を移した。

するとエンジュと呼ばれた少女は、ようやくタンタンへ関心を移したようで、手にしていた羽ペンを机に置くと、ノートを持ち上げて微笑んだ。

「うんあのね、スケジュール帳を買ってみたんだ」

「スケジュール帳?」

「そう。これからは宇宙の育成だけじゃなくて守護聖候補を探したり、説得しに行ったり、精霊の試練に行ったりって忙しいじゃない。だから、あらかじめ予定を立てておいたほうが、効率良く使命を続けられるんじゃないかなーって思って」

「ほう」

タンタンは小さく呟くと、ふわりと宙に浮き上がって腕を組み、エンジュを見下ろして目を細めた。

「それは感心な心がけじゃな。おぬしも、ようやくエトワールとしての心得が出来てきたとみえる」

「えへへ。自分でも、ナイスアイデアだと思ったんだ!」

自慢げにうそぶく少女を見下ろし、タンタンは少し褒めすぎたかと軽く後悔した。

「調子に乗るでないぞ、エンジュ。そんなものは少し頭の働くものならすぐに思いつくことじゃわい。今頃気がつくなぞ、決して褒められたものではないわ」

「ついさっき褒めたくせにぃ」とむくれながら、エンジュはスケジュール帳をぱたんと閉じた。するとタンタンはすうっと机の上に着地し、椅子から立ち上がろうとしたエンジュを見上げて軽く笑った。

「ま、なんにせよ、おぬしが少しは成長したことは認めてやろうかのう。せいぜい効率良く使命を果たして、早く一人前のエトワールだとワシを納得させるんじゃな」

「はいはい、頑張りまーす!」

エンジュはそう答えると、タンタンを見下ろしてにっこりと笑った。

 

「で、次はどこに行くんじゃ?」

「うん、ちょっと待ってね。…ええと、今日は火の曜日だから……」

聖殿の廊下で立ち止まり、真剣な表情でパラパラとスケジュール帳をめくるアンジュを見下ろしながら、タンタンは小さくため息をついた。

「おぬし、書いておるだけでは意味がないじゃろうが。せめて、数日分の予定ぐらいは覚えておかんか」

「なに言ってるのよ、タンタン。覚えてられないから書いてるんじゃない」

「――やれやれ」

やはり昨夜褒めたのは時期尚早だったとタンタンは肩を落とし、エンジュの左腕に寄り添い、ブレスレットへと変化した。