オスカーの屋敷を後にして、ちょうど庭園にさしかかったとき、マルセルが急にゼフェルの袖を引っ張った。
「ゼフェル、あそこ」
「ん?」
答えてマルセルが目線を向ける先に顔を向け、ゼフェルはぴくりと身体を震わせた。
「…オスカー」
どこかに出かけていて、いま戻ってきたのだろう。もう少し長居をしていたら、鉢合わせをしてしまっただろうと思うと、早々に切り上げてきてよかったと、四人は心の内で安堵した。
オスカーはいつもと同じように、声をかけてくる女性には笑みと挨拶を返していたが、心なしか疲れているように感じる。
「オスカー様ね。ここのところずっと、夜遅くまで王立研究院にいるみたいだよ」
マルセルが呟くと、ランディも微かにうなずいた。
「うん、俺も聞いた。特に出入りのデータとか、過去の聖地での未解決事件の資料とか、書類を山積みにして調べてるって、研究員の人が感心してたな」
「そう、ですか」
アンジェリークはさすがに罰が悪かったのか、申し訳なさそうに目を伏せたが、ゼフェルは無言でこちらに近づいてくるオスカーを睨みつけていた。と、ようやく四人に気がついたオスカーが右手を軽くあげ、そのままこちらへ歩み寄ってきた。
「よう、坊やたち。どうした、四人で遊びの相談か?」
「こんにちは! はい、いい天気だからちょっと散歩でもしようかなって、思って」
ランディが答えると、オスカーは「ほう」と呟きながら微かに笑った。
「お嬢ちゃんやマルセルはわかるが、ゼフェル、お前がそんな健康的な休日を過すとは少し驚きだぜ」
「るせーな。朝帰りしてきたヤツに言われたくねー」
憮然とした表情で答えるゼフェルの様子に、オスカーはくっくと咽喉の奥で笑った。
「残念だがはずれだ、坊や。朝から一つ仕事をこなして、その帰りだ」
「日の曜日なのにですか?」
マルセルが目を丸くすると、オスカーは困ったように微笑みながら顎をそっとなでた。
「まぁな。だが育成や女王試験の為じゃない。それを全部放棄していなくなっちまった、蒼い髪のお嬢ちゃんの手がかりを探しに、な」
オスカーの言葉に、少し元気を取り戻していたアンジェリークの表情が、再び曇った。それに気がついたマルセルが、慌ててランディの袖を引っ張って彼女の前に立たせ、自分はオスカーの前にわざわざ回り込んで笑顔を作った。
「うわぁ、オスカー様大変ですね。僕も、できるだけお手伝いしますから、なんでも言って下さいね!」
「ありがとうよ、マルセル。じゃあ、俺はそろそろ屋敷に帰るぜ。お前達も、暗くならないうちにちゃんと家に帰れよ。それからランディ、お前はきちんと責任をもって、お嬢ちゃんを寮までエスコートすること。いいな?」
「あ、は、はいっ!」
ランディの返事に満足そうな笑みを浮かべたオスカーは、四人とすれ違うようにして歩き出した。そしてゼフェルの前を通り過ぎようとしたとき、彼は銀髪の少年の声に、一瞬足を止めた。
「…いいか。アイツを泣かせやがったら、オレが承知しねー。覚えとけ」
何を言っているのかわからず、オスカーは眉をひそめて少年を見おろした。だがゼフェルは、まるで何事もなかったように前を行く三人の背中を追いかけて歩き出す。
オスカーはしばらくゼフェルの背中を見ていたが、やがて小さく笑うとくるりときびすを返し、改めて自分の屋敷に向って歩き出した。
「…言われなくたってわかってるさ、坊や。見つけだせたら、もう二度と泣かせたりするものか」