Short Storys vol.5

 

「じゃ、ロザリアが罰ゲームね♪」

残ったカードをテーブルに放りだし、大層楽しそうに最後通告をする女王陛下と、手元のジョーカーを苦虫を噛みつぶしたような表情で睨みながら押し黙る補佐官を見比べ、女王候補二人はこそっと囁きあった。

「ねぇ、いいのかなぁ。こんな風にロザリア様をだま……」

「バッカ! 聞えたらどうすんの!?」

テーブルの下からレイチェルに膝を軽くつねられ、アンジェリークは「いっ!」と小さく叫んで口をつぐんだが、その騒ぎはロザリアには聞えなかったらしく、彼女はやがて諦めたように肩をすくめるとすっと顔を上げた。

「わかりましたわ。負けは負け、潔く認めましょう。それで? わたくしは何をしたらよろしいのかしら、陛下?」

「もーっ、アンジェだってば!」

「はいはい。わかったから、早く罰ゲームとやらを教えてちょうだい。さっさと済ませてしまうから」

この二人の関係を知らない人から見ると、どちらが勝ったのかわからなくなるようなやりとりだったが、こういった場に頻繁に呼ばれるようになった女王候補二人は、そんなやりとりよりも罰ゲームの内容を告げられた時のロザリアの反応の方が気になったので、固唾を呑んで見守っている。

「じゃあ言うわ。えっとね、罰ゲームはね……」

女王陛下がにこやかに言葉を吐きだすと、その内容を聞いたロザリアは瞬時に立ち上がって叫んだ。

「ばっ、馬鹿なこと言わないでっ! そんな事、出来るわけないじゃないっ!!」

「えーっ! それはルール違反だよぉ!! ロザリアってば補佐官なのに決まりごとを破るのぉ!?」

「決まりごとってそんなのあんたが勝手に決めただけでしょうっ!!  とにかくっ、そんな事絶対にやりませんからね、ええやるもんですかっ!!」

「ロザリア、いいの? そんな事言って? 例え遊びだと言っても、一度決めたことを破るなんて。しかも……」

言いながら、ちらりと見守っている女王候補二人の方に視線を飛ばす女王陛下。

「女王候補の前で、お手本にならなきゃいけない補佐官の貴女が……」

そう言われると、根が真面目なロザリアが反論できるはずもなく。

やがて観念したようにがっくり肩を落とすロザリアと、してやったり!とばかりにこっそりピースサインをして見せる女王陛下の様子を観察していた少女二人は、どちらからともなく「ああいうところは見習わないようにしようね!」と誓い合うのだった。

 

小さなノックの音に、オスカーは顔を上げた。

「開いてるぜ」

告げると扉はゆっくりと開き、その隙間からきまり悪そうに顔を逸らしながらロザリアが姿を現わした。

彼女を見た途端、オスカーは唇の端をきゅっと持ち上げ、椅子から立ち上がると腕を組んだ。

「ほう、ご機嫌斜めのお姫様のほうからご来訪とは珍しい。どうした、仕事か? それとも、謝る気になったのか?」

本当はしばらくオスカーの顔など見たくもないのだが、これも罰ゲームとあれば仕方がない。

「……さっさとすませてしまうに限るわ」

「ん? なんだって?」

オスカーが怪訝そうに眉をひそめた途端、ロザリアは真正面からオスカーを見据えた。そして、いきなり真剣な顔で凝視する彼女の態度に一瞬ひるんだオスカーに素早く駆け寄り、組んでいた彼の腕をつかんで自分の方へ引き寄せた。

「っと! ど、どうし……」

「オスカー大好きよ!」

ロザリアは吐き捨てるように早口で呟き、前かがみになっている彼の頬に素早くキスすると、途端に踵を返して扉の方へ走り出した。

「ああ、もうっ! なんでわたくしがこんなことをっ!」

「それはこっちが聞きたいっ!」

「きゃあっ!」

扉まであと少しというところで、ロザリアは後ろからタックルをかけてきたオスカーに捕まって悲鳴を上げた。

「やだもうっっ! 離してちょうだいっ!」

「いーや、どういうことか説明するまで離せないね」

「ただの遊びよ! ああもう、最悪だわ!」

「おいおい、君はただの遊びで、誰彼構わず男に愛を告白してキスするのか?」

「失礼ね! あなたじゃあるまいしっ!」

「じゃ、説明しろよ……」

オスカーが少しきつめに叫んでロザリアの身体を振り返らせる。すると彼女は、しばらくオスカーを睨み上げていたが、やがて観念したように小さく溜息をついて俯いてしまった。

「……ゲームなのよ」

「なんだって?」

「……罰ゲーム。アンジェリークと女王候補二人とでやったトランプで、わたくしビリだったの。だから……罰ゲームをするように言われて……」

話を聞いたオスカーは、ロザリアの腕を掴んでいた手を少し緩めて「なるほどね……」と妙に納得しながら苦笑した。

「相変わらず、陛下は人を驚かせるのがお得意のようだな」

「くだらないことに夢中になるのが好きなだけだわ。ほんとにもう何を考えているのかしら、あの子ったら」

ロザリアがしかめっ面をしながら呟くのを聞きながら、オスカーは小さく笑った。

何を考えているのかなど、決まっている。親友のロザリアが恋人=オスカーと喧嘩をしたから、何とか仲直りさせようと、彼女なりの遊び心を加えて演出しただけだ。

なんでもそつなくこなし、細かいことにも気が回る補佐官殿は、不思議なことに自分に関してはまるで不器用で鈍いのだ。

「まぁ、そんなところも可愛いんだが……」と考えながら、オスカーはロザリアが油断している隙に、彼女の耳元に唇を寄せて囁いた。

「で、内容は?」

「え?」

「罰ゲームの内容。どんなことを陛下に命じられたんだ?」

「……もう、いいじゃない。終わったんだから」

「いいや、気になるね。“オスカーに告白してキスする”なのか“愛する人に告白してキスする”なのか? どっちだったのかが知りたい」

真っ赤になって押し黙るロザリアの様子に、オスカーは軽く笑うと彼女の身体を包み込むように抱きしめた。

おわり