素直になれなくて

 

「そういえば…もうすぐジュリアス様のお誕生日ではありませんでしたか?」

書類を整理し終えたところで、外界へ巡回に行っていたオスカーが報告を兼ねて訊ねてきた。

しばらく業務的な話をしていたが、不意にオスカーが思い出したように口を開いた。別に隠すことでもないので、ジュリアスは小さく頷く。

「そうだが。それがどうしたのだ?」

「では、何か祝いの席でも設けようと思いますがどうでしょう。もちろん、このオスカーが万事手配いたします。ジュリアス様は出席なさって下さるだけで結構ですが、当日は何かご予定がおありですか?」

「そのような気遣いは無用だ、オスカー。誕生日を祝う席など設けずともよい」

「ですが…」

折角の良いアイデアだと思ったのに、意外にもジュリアスが真正面から断ったので、オスカーは怪訝そうに眉をひそめた。だが、ジュリアスは表情を崩すことなくオスカーを見つめ、淡々と言い放つ。

「我らは外界の者達とは時間を異とする存在。生まれてより幾年月経たなどと数えるだけ無駄であろう」

ジュリアスの言葉にオスカーは思わず口を噤んだ。それを理解したと受け取ったのか、ジュリアスはおもむろに椅子から立ち上がるとオスカーに背を向け、窓の外を黙って見つめた。

 

ジュリアスの部屋を辞したオスカーが聖殿の廊下を歩いていると、反対側からクラヴィスとリュミエールがこちらに向かってきた。

お互いにすれ違いざまちらりと一瞥したが、特に口を開くことなくそのまま行き過ぎようとした。が、ふいにクラヴィスが立ち止まったので、後ろについていたリュミエールはその背中にぶつかりそうになり、慌てて足を止めた。

「どうなさいました、クラヴィス様?」

「――あれは…断っただろう?」

リュミエールの問い掛けには答えず、クラヴィスはいきなりオスカーの背中に向けて言葉を発した。すると今度はオスカーがぴたりと足を止め、怪訝そうに振り返る。その気配を感じたのか、クラヴィスは改めて彼の方へ向き直ると、軽い笑みを浮かべた。

「時間を渡る我らゆえ、外界の者と同じように年月を数えるなど無駄なこと。……そう、言ったのではないか?」

「どうしてそれを…?」

オスカーは驚いて思わず数歩クラヴィスに歩み寄ったが、闇の守護聖はそれには答えず、視線をすっと逸らして軽く笑った。

「あれの言いそうなことだ…。年月を数えるのが恐ろしくてならず、さりとてそれを人にありのまま告げることを厭う。……厄介な性格だ」

「クラヴィス様…」

リュミエールが困惑した表情を浮かべているのに反して、オスカーは見る見るうちに明らかに不愉快そうな表情になり、目の前にいる黒衣の守護聖を睨め付けた。

「では、ジュリアス様はご自分の誕生日を迎えるのを恐れているとでも?」

「大方……外界と己の時間の隔たりを認めるのが怖いのだろう。あれも存外、憶病者らしい……」

クラヴィスはそう言うと、さも馬鹿にしたようにくっと声をあげて笑った。途端にオスカーは「失礼する!」と一声張り上げると、マントをばさっと音を立てて翻し、肩を怒らせながら足早に歩き去っていった。

 

不安げにオスカーの後ろ姿を見送っていたリュミエールだったが、やがてクラヴィスの気配がすっと歩き出したのを感じて、慌てて後を追った。

「クラヴィス様、何もあのような言い方をなさらなくても……」

「ふっ――これであれも断れないだろう。誕生日祝いとやらを、な」

「え…?」

リュミエールは一瞬立ち止まり、呆然とクラヴィスの背中を見つめていたが、やがて納得したような表情を浮かべると、足早に歩き出した。

「クラヴィス様もお人が悪いですね。ジュリアス様のお祝いをなさりたいのであれば、そうおっしゃればよいのでは?」

「祝いなど別にしたくはない。ただ……あれの困った顔はなかなか面白い余興なのでな……」

う言うとクラヴィスは、珍しく本当に楽しそうな笑みを浮かべた。

おわり