「すみません、もう少しだけ待っていただけませんか?」
申し訳なさそうに眉をひそめるマルセルの背後で、ランディが何か大きな箱を持って走り回っている。
「年寄りは気が短ぇんだよ、ったく!」
ぼやくようなゼフェルの言葉の後に、ガツンッ!という小気味良い音が響いた。おそらくオリヴィエが、ゼフェルの後頭部を何かで叩いたのだろう。 しばしの沈黙の後、「ううっ…」という小さなうめき声が微かに聞こえてくる。
マルセルは後ろを振り返って呆れたようなため息をつき、再び顔をこちらへ向けてジュリアスとルヴァを交互に見ると、恐る恐る口を開いた。
「あの、本当にもう少しで準備が終わりますから…」
おそらくマルセルは、ジュリアスに手際の悪さを指摘されると考えているのだろう。おっかなびっくりといった感じでジュリアスを見上げている。
なにかフォローしてあげなければいけませんねぇ…とルヴァが軽く首をかしげるのと同時に、今までぶ然とした表情を浮かべていたジュリアスが口を開いた。
「かまわぬ。お前達の好きにするがよい」
「え…?」
ジュリアスの意外な言葉に、マルセルがあ然とした表情を浮かべた。それはジュリアスの隣に立っていたルヴァも同様で、こちらも目を見開いて首座の守護聖の顔をまじまじと見つめている。
「どうした? 準備ができるまで待っていると申したのだ。そのように皆にも伝えるがよかろう」
ジュリアスが怪訝そうにマルセルを見下ろすと、緑の守護聖は弾かれたように背筋をぴんと伸ばした。
「は、ははいっ!」
答えると同時に、ジュリアスの気が変わったら大変だと思ったマルセルは、慌てて扉を閉めた。
閉じた扉の前で再び目を閉じ、何かを考え込むジュリアスをじっと見つめ、やがてルヴァは「くすっ」と小さく笑った。
「なんだ、ルヴァ。何がおかしい?」
閉じていた目をすっと開け、ジュリアスは美しい青の瞳をルヴァの方へ向けた。
「いえ、あなたがああ言って下さるとは意外だったので…」
いつものジュリアスだったらこういう催しには眉をひそめただろうし、予定時刻になっても主賓を会場に入れない不手際について、怒っていただろう。
「確かにこのような催しは苦手だが…あの者達は私のために前々から計画を立てていたのだろう? その気持ちを無下にすることは出来ないのでな」
「ありがとう、ジュリアス」
軽く頭を下げるルヴァの態度に、ジュリアスは不思議そうに小さく首を傾げた。
「なぜそなたが礼を言うのだ?」
「あなたが、あの子達の気持ちを第一に考えてくれたからですよ。あの子達に代わって、私からお礼を言わせてもらったんです」
にこにこと笑うルヴァをじっと見つめ、やがてジュリアスは軽く微笑んだ。
「おかしな事を。私の誕生祝いを催しているのはそなたたちだぞ。むしろ私が礼を言うのが本来の姿であろう?」
「あ、あはは…それもそうですねぇー」
ジュリアスの柔らかい笑みにつられて、ルヴァも思わず声を立てて笑ってしまった。と、その時、微かに目の前の扉がきしんだ音を立てたかと思うと、ゆっくりと開かれた。
「お待たせしました、ジュリアス様」
扉の両わきには二人の女王候補が立っていて、ジュリアスとルヴァの姿を見つけるとにっこりと微笑んだ。
「ルヴァ様、ジュリアス様のご案内をありがとうございました」
「では、主賓席へ。今度は私たちがエスコートしますね」
言うと二人は前に進み出て、ジュリアスの両わきに並び、今日の主役を見上げて再び微笑む。その花のような笑みに、ジュリアスもまた優しい微笑を返して、少女達と並んで、まぶしい輝きを放つ室内へと足を踏み入れた。
「「「ジュリアス様、お誕生日おめでとうございまーす!!」」」